クレメンタイン・ミッションは月と小惑星の鉱物組成を決定することを目的にし ていた。そしてこの歌は”・・・・Lost andgone forever, oh my darlin’ Clementine” で終わる。クレメンタイン・ミッションも小惑星フライバイの後、宇宙の彼方へ飛 び去る予定であった。しかし、ソフトウエアの不具合によって、小惑星探査ミッ ションは行われないまま、歌の様に永遠の彼方へ失われてしまった。
このクレメンタインはDSPE(Deep Space Program Science Expriment)という軍 の計画した月・惑星探査計画で、きわめて小型軽量でありながら、観測機能は多彩 というユニークなものである。80年代のはじめ、冷戦時代に大陸弾道弾から米国 を守るということで始められたSDI計画にその端を発する。そこで技術開発の結 果生れた、非常に小型で軽く(ここに説明されている観測器全部の重量を合わせて も7.4kg程度、必要な電力も97.3Wですむ)、コストも安い観測機器やシステムを実 際の宇宙環境に曝し、その特性をデモンストレーションしたいという軍の目標と、 その結果得られるデータを科学研究に有効利用するというNASAの意向がうまく かみ合って、この計画は共同で実施された。
1994年1月25日に打上げられ、2月19日、周期5時間という、月を回る
楕円極軌道に投入された。ここで約2カ月間、月を303周し、表面の詳細なマッ
ピングを行った。撮影されたイメージは軌道一周する間に平均400〜500枚、
全部で160万枚に上った。これら紫外から可視、赤外領域でのマルチスペクトル
データはすべて地上に送られた。それらのイメージはインターネットに置かれ、希
望する研究者は誰でもアクセスできるようにした、ということも画期的なことで
あった。月探査終了後、小惑星Geographosに向うが、前述の通り失敗におわった。
(あすてろいど No.94ー02参照)
クレメンタインS/C(宇宙船)はNaval Research Lab.で組立てられたもので、 Lawrence Livermore National Lab.で設計・製作されたセンサーを搭載している。そ の主なものは光学観測器で、その内の一つはレーザー測距システムを持っている。 それらはUVVIS(Ultraviolet-visible)カメラ、LWIR(Long-wave infrared)カメラ、 LIDAR(Laser-ranger)を持ったHIRES(High-resolution)カメラ、およびNIR (Near-infrared)カメラである。それらの観測器を表に、その視野を図2に示す。
さらに2台のスタートラッカー・カメラを持っている。その主たる目的は姿勢の 決定であるが、広視野カメラとして種々の科学観測や運用に用いられる。
クレメンタインは観測器を目標に向けるために12個の小さな姿勢制御用ジェット を持っている。姿勢制御システムは前述の2台のスタートラッカーと2台の軽量型 慣性航法装置、すなわち1台のリングレーザー・ジャイロと1台の干渉型ファイ バー・ジャイロを持っている。月軌道上ではReaction wheelによって3軸制御され、 その制御精度は0.05°、決定精度は0.03°である。
インフライト・キャリブレーションも行われた。それらのデータは真空での飛行 条件やミッション中の性能の劣化を補正するのに用いられた。両方のキャリブレー ションの組み合わせによって5%以上の精度が期待される。
その他、荷電粒子望遠鏡も搭載されているが、ここでは光学観測装置のみについ て紹介した。(なお、ここに用いた図と表はS.Nozette他、The Clementine Mission to The Moon : Scientific Overview, SCIENCE, Vol.266, 16 Dec. 1994によります。)
NIRカメラの光学系はカタジオプトリック型で、機械的に冷却された256X256ピクセルのInSb のFPA(Focal plane array:像画アレイ)と組み合わされている。FPAは月軌道では 70±0.5Kで、6個の波長バンドで働く。図2にその波長バンドが示されている。
HIRESカメラは、軽量望遠鏡システム、イメージ・インテンシファイアーおよ びフレームトランスファーCCD撮像装置を組み合わせたものである。波長域は 400nmから800nmである。この間の5個のバンドがフィルター・ホイールによって選 択される。6番目のフィルターはイメージ・インテンシファイアーを保護するため の不透明バンドである。月の昼側の撮像時には、イメージ・インテンシファイアー のゲートタイムは1msecで電子回路のゲインは低レベルに設定される。イメージ・ インテンシファイアーの寿命の観点から、低レベルの露出で作動させている。この ため、HIRESセンサーとしての雑音レベルとしては光電子ショットノイズが大 きくなっている。
LIDAR装置はHIRESカメラの視野の一部を使い、Nd −YAGレーザーの1064nmのリターン・シグナルを分離し、ダイクロイック・フィ ルターを持ったアヴアランシェ・フォトダイオードで検知する。光学系は画像型で はなく、リレー光学系を通して出射瞳がAPDに来るようになっている。距離は レーザーの発射パルスと受信信号の間のクロックパルスの数で測られる。
LWIRカメラの光学系はやはりカタジオプトリック型で、65ンKに冷却された 128x128ピクセルのHgCdTe FPAと組合わされている。観測波長はフィルター によって80から9.5um設定されている。 スタートラッカー・カメラの光学系は共軸光学系で、光ファイバーの像平坦化シ ステムでCCDアレイの像面に結合されている。スタートラッカーの第一の目的 は、撮像された星像を搭載されたスターカタログに対してプロセスして、航法のた めの絶対的角度基準を与えることである。科学的目的は二義的なもので、広いバンド 幅の観測しかできないし、ライントランスファーの電子シャッターのために、例えば地球からの 反射光によって照らされた暗い目標のイメージングにしか用いることができない。