昔、冷たい木枯らしに震えながら、夜中に望遠鏡を持ち出し、撮影した写真の幾 つかを比べながら、小惑星を見つけたときの喜び。それは既に知られているもので はあったけれど、肉眼では決して見ることのできない天体を確認できたという喜び で、とても興奮したことが思い出される。気まぐれに望遠鏡を覗く程度なので、そ の後特に小惑星の探索をしたなどということはなかったが、太陽系の中に無数に存 在するというこの小天体達がどんな姿をしているのか、とても気になったものであ る。
それらは火星のはるか先にあって、望遠鏡でしか見えないものではあっても、夜 空を彩るスターダストのひとつ。太陽光を受けたときには、精いっぱい美しく輝い て、写真乾板の上で存在を誇示するのだ。それがたとえ微かなものであっても、夜 空に輝く天体に、決してこの写真に見るような姿をイメージすることはなかった。 最初の衝撃的写真は1970年代の初め、アメリカの火星探査機マリナー9号に よってもたらされた。火星の衛星フォボスとダイモスの写真である。天文学上の発 見よりも150年も昔に小説「ガリバー旅行記」で登場していたという二つに衛星 は、岩のかけらのようないびつな体、表面は大小様々なクレーターにびっしりと覆 われていた。アポロによる月探査も進み、クレーターが天体の衝突の結果であるこ とにようやく落ちついた頃であった。
今、目の前にある写真がその小惑星の素顔。その姿を理屈では納得しても、少し 空しくなる。それは石ころ、太陽系の瓦礫、地球や火星や、その他の惑星が作られ たときの残骸。いかに楽観的であっても、いずれ起こる衝突でそれぞれさらに細か く破壊され、やがて宇宙の藻屑と・・・という将来が想像されるだけである。Ida1 5億年、Gaspra5億年。これらの天体の推定年齢である。人類からみれば無限大と も思える年月であっても、天体としては短命。おそらく5億年前、あるいは15億 年前、母天体に起こったカタストロフィックな衝突がGaspraやIdaを生んだ。母天体 は、そのさらに何億年か前に祖母天体の衝突から生まれた。祖母天体はさらに何億 年か前に・・・。そして太陽系の創世記にたどり着くまでの情報を、このGaspraや Idaの写真は提供してくれるのだろうか。
GaspraやIdaの表面を埋めた大小、新旧の様々なクレーターは、生まれてからこれ までの間に、さらに小さな、小さな天体がそれぞれの天体を襲った痕跡。やがてい つの日か再び大きな衝突が起こって、たくさんの小さな小惑星が生まれることにな る。その中には地球に接近するなどという異端児もでてくるかもしれない。