1996年5月19日16時34分(世界時)に、小惑星1996JA1が地球中心からわずか0.00303天 文単位という距離の所を通過しました。キロメートルで言えば、45万3千キロ。地上のス ケールと比較すれば遥か彼方ですが、この距離は月までの距離(約38万4千キロメート ル)にほぼ匹敵する距離であり、天文学的には正真正銘の「ニアミス」です。実際、後で も述べるように、このニアミスは歴代第6位にランキングされるものでした。
この小惑星は、最接近するわずか5日前の5月14日に発見されました。発見者は、フロ リダ大学の大学院生であるTim Spahrで、ツーソン(Tucson)の41cmシュミット望遠鏡で 初めて観測されました。最接近時には、見かけの位置が1時間に10度も動くような、「超 高速移動天体」でした。ちなみに、発見されたときの明るさは16.5等でしたが、最接近時 には10等級となり、明るさも急上昇した天体でした。さらに、5.5時間ぐらいの周期で明 るさが0.75等ほど変化していることも観測されました。これは、この小惑星の形が球形か らかなりずれていることを示唆しているものと思われます。
気になることは、この小惑星の大きさですが、その明るさから直径が250mから300mほ どと見積もられています。幸い今回はこの天体は地球のそばをかすめて飛んでいっただけ ですが、仮に地球と衝突したとすると、その時の速度は秒速26kmとも言われています。 この速度は、小惑星の密度を1立方センチメートルあたり2.7gと仮定してその衝突エネル ギーに換算してみると、3千から4千メガトンというものになります。これは、広島型原子 爆弾のエネルギーである0.024メガトンのなんと15万倍(!)。本当に地球に衝突しなく て助かりました。
さて、このような小惑星の接近などの情報は、以前は手紙で送られてきましたが、最近 では「電子メール」というものでも送られてきます。電子メールはほんの短い時間で全世 界に届きますから、最新の情報が手元に届きます。ただし、電子メールを使うためには、 ネットワークに接続できるパソコンなどが必要です。今回の小惑星1996JA1の発見やその 後の情報も、2種類の電子メールで送られてきています。1つはIAUC(IAUサーキラー) と呼ばれるもので、もう1つはMPEC(マイナープラネット・エレクトリック・サーキュ ラー)というものです。これらはそれぞれ、天文現象一般についてや小惑星・彗星などに ついての最新の情報を伝えるものです。1996JA1については、5月16日に発行されたMPEC 1996-K01で最初に報告され、接近するにつれて更新された軌道情報が次々に送られてきま した。
さらに、最近はネットワークの機能をより有効にいかしたWWWというものが流行して います。すでにいろいろなところでご覧になっていると思いますが、インターネットでい ろいろな情報に手軽にアクセスしようとするもので、よくhttp://で始まるアドレスが書い てあったりします。小惑星1996JA1についてもこのWWWで情報が公開されました。( WWWとは、World Wide Webの略で、Webとはクモの巣とか織物という意味ですから、世 界中に張られた網のようなイメージのものです。)
では、さっそくインターネット上の1996JA1のページを見てみましょう。この文章を印 刷物としてご覧になられている方には申し訳ありませんが、WWWでご覧の方は 「ここ」 をクリックしてみてください。 1991JA1のページが出てくるはずです。ただし英語ですが。このページには、観測位置を 入れればこの小惑星がどこにみえるのかを計算して表示してくれる機能もついています。 ちなみに、先ほど紹介しましたMPECの発行をしていますMinor Planet Centerのホームペー ジは 「ここ」 ですので、こちらも参考にしてください。
これらのWWWのページからは、関連する様々なページへアクセスできるようになって います。例えば、先ほどのMinor Planet Centerのホームページから The NEO Pageのページに行ってみましょう。NEOとは Near Earth Objectsの略で、「地球近傍天体」のことです。このページには、最近接近した 小惑星や 彗星のリストや、 これから接近する天体のリストのページにも行けます。 これらのページから地球に接近した小惑星や彗星の リストを抜き出してみますと表1と表2の よう
になります。この表からは、1994年12月9日
に1994XM1という小惑星が地球から
0.0007AU(約112,000km)まで近づいたのが
最も接近したものであることが分かりま
す。初めに書きましたように、小惑星
1996JA1も6位にランキングされています。
このように、ネットワークにさえつなが ることができれば、最新の情報も含めて各 種の情報やデータを居ながらにして知るこ とができる時代になってきたわけです。と いうよりは、情報の量が多すぎて、どのよ うにして的確な情報をすばやく手に入れる かがより身近な問題になってきた時代と言 うべきかもしれません。ここで紹介しまし たWWWのアドレスにアクセスしてみると、 次から次へと別の情報のページに移ってい けることが分かると思います。本当に「情 報の海」の中で迷子になってしまいそうで す。
さて、最後にまた1996JA1に話を戻しま しょう。この小惑星が接近したときには、 日本でもたくさんの観測がなされました。 その一例は、国立天文台のWWWのページで ある http://www.nao.ac.jp/pio/MP/にも掲 載されています。この小惑星ですが、 軌道運動を調べてみると、前回地球に 接近したのは1992年で、この時には地 球に0.093天文単位まで近づいていまし た。また、次回は、2000年に0.41天文単 位まで近づくそうです。でも、このと きには明るさは21等ぐらいということ なので、再び観測するのはあまり簡単 ではないかもしれません。また、この 小惑星の軌道は長半径が2.52天文単位、 離心率が0.7、軌道傾斜角が22度です。 この軌道長半径が2.52天文単位というと ころは、木星と3:1の共鳴関係にあると ころです。もしかすると、この小惑星 は「共鳴現象」と関係あるのかもしれ ません。その起源に興味が持たれま す。
Minor Planet Centerのホームページを 見ますと、1996JGという直径が1.5kmほ どの小惑星が1996年5月24日に0.02天文 単位(3百万km)まで接近するという記 事もあります。これからますますこの ような接近が目撃されるようになると 思います。小惑星は小さな天体です が、まさに目を離すことのできない天 体なのです。
(注)ここに表示しましたWWWのアド レスは1996年6月7日現在のものです。 変更などがあるとアクセスできなくな ることもありますのでご了承ください。
(通信総合研究所 鹿島宇宙通信センター)