本年(1996年)3月21日に国際スペースガード財団(SGF)が設立された。この財 団はイタリアの法律の下に正式に届出をなされたもので、当面、本部はローマに置かれ る。発足時の会員はTom Gehrels(U. of Arizona)、David Morrison(Ames Research Center)、Richard West(ESO)など38名である。評議員(Board of Directors)としては、 Andrea Carusi(Instituto di Astrofisica Spaeiale, Itaey)、Syuzo Isobe(National Astronomical Observatory, Japan)、Karri Muinonen(U. of Helsinki, Finland)、 Brian Marsden(Harvard- Smithsonian Center for Astrophysics, USA)、Duncan Steel(U.of Adelaide, Australia)、 Eugene M. Shoemaker(Lowell Observatory, USA)が世界の分布を考慮して選ばれた。ま た、評議員のe-mailを使っての議論により、会長(President)には、A. Carusi、副会長には D.Steel、秘書(Secretary)にはMario Carpino(Osservatorio Astronomico di Brera, Italy)が 選ばれた。SGFの会則や関連事項は WWW: http://www.brera.mi.astro.it/SGF/ に書かれている ので見てほしい。
1.SGFの設立まで
地球に接近する小惑星は1949年のイカルスの発見以来、少しずつ増えてきた。しか し、これらの小惑星は直径が小さいので、よほど地球に接近しないと検出が難しく、1970 年頃までにはわずか10個あまりが発見されただけであった。1973年にShoemakerと Elizabeth F. Helinがパロマー山天文台の46cmシュミット望遠鏡を使って惑星軌道と交差す る小惑星(Planet-Crossing Asteroid Survey:PCAS)をスタートさせ、1985年までに検出した 地球接近小惑星の数を50個近くまで増やした。
地球近傍天体の重要性は別の方面からも出てきた。1980年にAlvarez and Alvarez(父 子)が白亜紀と第3紀の境界の時期に起こった恐竜の絶滅は、直径10km程度の小惑星の 地球衝突が原因であるという説を出した。この境界の地層には地球表面では存在割合の少 ないイリジウム原子が多かったので、小惑星によってもたらされた証拠とされた。この説 は地質学者の間では賛否両論、どちらかといえば反対意見が多かった。一方、天文学者は 衝突の可能性を示し、論文をより多く発表した。太陽の伴星ネレウスが近づくと、オール ト雲の彗星に摂動が働き、太陽近傍まで多数落下してくるという仮説まで出された。
観測天文学者はまずデータを揃えることが大切と考えた。アリゾナ大学のT. Gehrelsは 効率よく地球近傍小惑星を検出するために、スペース・ウォッチ望遠鏡用の新しいCCD・ の開発を始め、1989年の完成後は毎年20から最近では40個をも検出して、現在では400・個 を越えるほどになった。そして、それらのデータを使っての衝突確率の計算がなされ、直 径10kmもの小惑星の地球衝突は数千万年から1億年に1回程度という値が示されてい る。
Alvarez親子の発表を受けて、1981年にNASAは小惑星と彗星の衝突に関するシンポジ ウムを開催している。そして、1980年代を通じた議論を基にしてC. Chapman and D. MorrisonはCosmic Catastropheという本を出版して、ことの重大さを広く訴えかけた。そし て、 NASAを通して地球接近小惑星(NEA)の検出観測プロジェクトをアメリカ議会に提 案した。 1990年にメキシコ・ユカタン半島に6500万年前、直径10kmあまりの小惑星衝突 で作られた巨大クレータが埋もれていることが飛行機による重力分布測定によって発見さ れた。この発見が後押しとなってNASAにNEO検討委員会(The Space-Guard Survey Project)が設立された。
1991年6月に地球近傍小惑星国際会議がカリフォルニアで開催され、その結論を受け て1991年7月にアルゼンチン、ブエノス・アイレスで開催された国際天文学連合(IAU) 総会(GA)において、地球近傍天体(NEO)WG(委員15名、日本人委員は磯部)が設 立された。アメリカ議会はSGSPに好意的であり、1992年1月にSGSPの報告書が議会に提 出された。その時残念ながらちょうどクリントン政権に変わった結果、NASAが緊縮財政 となり、結局は日の目は見なかった。
これ以後、IAUのNEOWGを中心としていくつもの国際会議が持たれた。1992年6月に 「小惑星・彗星・流星」国際会議(Trieste, Belgie)の折にNEOWG会合。1993年1月に 「災害を起こす小惑星の検出」国際会議(Sicily, Italy)。1993年5月に国際連合・インド ネシア共催「宇宙の利用」国際会議(Bandong, Indonesia)。1993年5月に「NEOの問題 点」国際会議(St. Petersberg, Russia)。1993年12月に「平山族小惑星」国際会議( Sagamihara, Japan)。幸いなことに1994年7月に木星に衝突するShoemaker-Levy No.9( SL9)彗星が発見され、これを機にアメリカ議会が再び、地球衝突小惑星問題の検討のた めにNASAにいわゆるShoemaker委員会を設立させた。そして、1995年6月の答申の下に 予算化が進められている。
この間、Duncan Steelを中心として、1990年からAnglo-Australian Near-Earth Asteroid Survey(AANEAS)がスタートして、105cmシュミット望遠鏡(写真)と1mカセグレン 望遠鏡(CCD)を使っての観測が始まった。また、ハワイのハレアカラ山にあるアメリカ 空軍の1m望遠鏡(人工衛星追尾用望遠鏡:Groundbased Electro-Optical Deep Space Surveilance (GEODSS))に1960×2560ピクセルのCCDを装着したNear-Earth Asteroid Telescope(NEAT)が1996年2月から観測を開始した。さらにローウェル天文台の58cm シュミット望遠鏡に2048×2048ピクセルのCCD4個のモザイク受光器を取り付けて行う The Lowell Observatory Near-Earth Object Search(LONEOS)の観測が1997年より開始され る。これらによってNEOの検出個数は倍増することになる。
1994年8月には「太陽系小天体と惑星の相互作用」国際会議(Mariehamn, Finland)が あり、この会議を受けてオランダのハーグでのIAU総会で、NEOWGが持たれ、IAUのWG として、もう3年間活動することになった。1995年4月に「NEO」国際会議が国際連合と の共催で開催された(New York, USA)。1995年5月にアメリカ空軍やNASAの共催で 「惑星防衛」国際会議(Livermore, USA)。そして1995年9月にIAUNEOWGの国際会議 (Vulcano, Italy)において、The Spaceguard Foundationを設立することに出席者が同意し た。
この時期にA. Carusiはヨーロッパ議会(European Council)議員のLorenziを通じて、 ヨーロッパでの観測体制への支援を求めていた。そして、幸いにも1996年3月20日の議会 において、「人類にとって危険な小惑星と彗星の検出」に関する議決が行われ、加盟各国 とEuropean Space Agency(ESA)に要望書が送られた。これを受けてESAは静止軌道にあ るスペース・デブリ検出用に開発していてカナリー島に設置予定の1m望遠鏡の観測時間 の一部をNEO検出観測用に使うことになった。この望遠鏡は1997年から動き始める。
このように、NEOの重要性を考えて、多くの国際会議が次々と持たれ、Spacewatch Telescopeを立ち上げたT. Gehrelsがこんなに国際会議を開くお金があるならば、NEOの 観測システムを購入した方がましだとの発言をしたほどである。確かにT. Gehrelsのグ ループは資金不足に陥っており、1996年から職員の給料を3分の2にして観測を続けてい るのである。しかし、このような国際会議の結果として、NEOの検出及び研究を支援す る組織として、1996年3月26日にThe Spaceguard Foundationが正式に設立されたのであ る。
2.SGFの目的
SGFは個人が任意に加入する組織である。その活動の中味は会員の意志と会長及び評議員 の意向によって進められていく。当初の目的としては次のようなことが考えられている。
a. 国際共同によってNEOの検出、追加観測、及び軌道決定を進めるための組織化を図る。
b. NEOの鉱物学的性質を明らかにする理論、観測、実験の組織化を図る。
c. 研究上、必要な費用の提供を図る。
d. 必要ならば、電波、紫外線など他波長の観測の組織化を図る。
e. 地上観測とスペース観測をネットワークする組織化を図る。
f. データ解析、データ検索のためのセンター設立に協力する。
g. 将来のスペース・ガード研究所の設立に向けて推進の役を果たす。
h. 各国政府、各研究所に各種に提案をしていく。
i. マスコミ、教育機関、図書館向けの情報誌を発行する。
j. テレビ、Internetを通じての画像提供を行う。これらを実現していくためにSGFは次のよ うな原則で活動する。
イ. 国際的な組織でなければならない。
ロ. 個人加入の団体である。もちろん、政府、研究所、会社などからの寄付金の提供を受け られるように積極的に努力する。
ハ. 地球衝突小惑星の問題を取り扱う組織として、多方面からの支援を得られるようにす る。
ニ. SGFが行う活動は他機関から独立したものである。資金は当面会員からの会費のみであ るが、より多くの寄付を得られるようにする。当面は年100万円程度の予算であるが、数 年以内に年数千万円規模になる努力をする。そして、最終目標としては年2億円レベルを 考えている。
このようにして発足したが、会費を含めてまだ詳細は決定していない。1996年7月10 日にフランスのVersaillesで開かれる評議員会で決定されることになっている。 日本にお いてもより多くの方々が会員となってSFGを支援していただきたいと思う。