1.Discovery Observations(検出観測)

 現在2万個を超える小惑星が検出されている。これらは大部分が小惑星帯にある小 惑星である。直径が10kmを超える小惑星では、16-17等級の明るさになるので、口径 30cm程度の望遠鏡でCCDと組み合わせると十分に捉えることができる。そして、アマ チュア天文家もCCD観測を行うようになった現在では、アマチュア天文家による検出が 次々と行われている。しかしNEA(地球近傍小惑星)の観点においては、直径10kmの ものはほとんど検出されており、30個ほどになっている。直径1km程度のNEOは3000個 あまりと言われているが、これまでに100個あまりが検出されているだけで、アマチュ ア天文家の検出は数個のみである。直径1kmの小惑星が小惑星帯にあると、20-22等級の 明るさで、地球によほど近ずかないと、17等級の明るさにならないためである。

 現在検出されているNEAは400個近くにもなっている。図1に年毎の検出されたNEA の累積数が示されている。1970年以降の検出数の増加は、G.Hellin や G.Schoemakerなど によるパロマー山50cmシュミット望遠鏡による写真観測から得られた成果である。そ の観測の限界等級は18等級であったので、検出数はあまり多くなかった。1989年はアリ ゾナ大学のスペース・ウォッチ望遠鏡が動き出した年である。特別にデザインされたス キャンニングCCDによって21等級より暗い所まで系統的に観測するものであったので毎 年20〜40個のNEAが次々と検出されている。

1996年にハワイ・ハレアカラ山にアメリカ空軍によるNEA検出用の1m望遠鏡が完成 して検出観測を始めた。この望遠鏡をNEATとよんでいる。1997年にはローウェル天文 台の望遠鏡に広視野CCDを取り付けたLONEOS(Lowell NEO Survey)が完成し、観測を始 める。同じ1997年にESA(European Space Agency)のスペース・デブリ検出用の1m望遠鏡 がカナリー島に完成し、この望遠鏡の一部の観測時間がNEO検出用に使われることに なっている。

 ここに示したような望遠鏡が全部働き始めると、毎年100-200個のNEAが検出される 事になる。しかし、これらの望遠鏡が検出しても、そのfollow-up observations (追跡調 査)がなければまたたくうちに見失ってしまう事になる。それぞれの望遠鏡で追跡観測 を行えば、検出能率が落ちる。追跡観測用の望遠鏡が不可欠である。

2.Follow-up observations(追跡観測)

追跡観測には国際的な協力が必要である。スペースウォッチ望遠鏡の場合の検出を考え てみよう。この望遠鏡では通常同じ星野を一晩に3回観測する。小惑星の軌道要素は6 個であるから3回の観測(赤経、赤緯の値)があれば軌道は決められる。しかし、観測 データには誤差があり、しかも数時間の小惑星の動きだけで軌道決定するので、検出か ら日が経てばたつほど誤差が大きくなる。

1996年3月に検出された1996FQ3を見てみよう。私達は木曽観測所の105cmの望遠鏡の CCDによって1996年4月25日に追跡調査を行い、捉えることができた。(写真1)しか し、この観測から求められた位置は、予報値から30秒角もずれていた。もし、1年間追 跡調査がなされなければ、6分角以上ずれていて、木曽観測所のCCDの視野10分角では 捉えきれなくなっていたことになる。

 スミソニアン天文台の小惑星センターが世界中で観測されるデータを集めて、次々 と軌道計算をしている。そして、観測回数が十分でないために予報位置の精度の悪いも のを拾い出して表をつくっている。この表は日に日に(時には3日位、間があくことが ある)更新され、インターネットを通じて、いつでも見る事ができるようになってい る。上記の1996FQ3はそのようなリストから、急いで追跡観測しなければいけないもの を選んで観測したものである。

1996FQ3は17等級と比較的明るいので小型望遠鏡でも観測可能である。写真2に各等 級の小惑星の追跡観測が示されている。20等級を超えるとCCDの雑音が目立ちはじめ、 動きの速い小惑星(1996HN)では露出時間を長くしても像が伸びるだけで、各CCDピクセ ルにおける光量があまり増えないのでより厳しくなる。

 この時の観測で捉えられたもっとも暗い小惑星は20.7等級の1995AMであった。明る い小惑星では星の位置を基準にして2枚の画像を重ねて小惑星の位置の変化を示した が、1995AMの場合には、小惑星と思える光の点を基準にして2枚の画像を重ねること により、小惑星の像をより明らかにする方法をとった。この場合、雑音信号と混同する 可能性があるので、数十分後にもう1対の観測をして、2つの小惑星像の動きが予報さ れた動きから大きくはずれていないかを見る事によって確かめた。決定された位置は予 報値から120秒角も離れていた。1995AMは検出以来追跡観測が行われずに1年あまり 経っていたためである。

3.NEOを逃さないために

 このように追跡観測は重要であるが、20等級を超えるものを捉えるには望遠鏡の口径 が1m前後と大きくなければならない。そのため追跡調査が有効に行える望遠鏡の数は 少ない。木曽観測所の場合、シーイングによる星像にあまり良くなく、私達の観測した 時にはかなり良いほうであったが、それでも3秒角をやっときる程度であった。もし、 星像が1秒であれば、CCDのピクセル当たりの光量が10倍近く明るくなり、背景光の影 響などを考慮しても22等級にまで達する観測ができるはずである。スペースウォッチや NEAT等はこのレベルの検出観測をしている。

一方、望遠鏡の焦点距離に合わせて、CCDのピクセル当たりの角度の秒数を大きくで きれば、背景光の影響は大きくなるが、単位ピクセルに入る小惑星からの光量を増やす 事が可能となる。しかし、日本の多くの公共天文台が採用しているカセグレン焦点では 焦点距離が長くなりすぎて、それにマッチするように1ピクセルを大きくしたCCDはほ とんど作成不可能である。多くの追跡観測用の望遠鏡があれば、CCDの視野は狭くても かまわない。検出の日から早い時期に追跡観測をすれば、仮に決めた軌道要素が少々悪 くても予報値はあまり大きく離れないで、十分に視野の中に捉えられる。この事が逆 に、検出観測に劣らず追跡観測用の望遠鏡が必要な理由である。ここで示したように検 出観測と追跡観測が両輪となった体制がより早くとれる事が望まれる。なお、本稿に示 された写真は磯部とD.J.Asherが観測して、Asherが解析したものである。

(国立天文台)