吉川 真(ニース天文台)
母国を離れて別の国に住むというと、身の回りのものから生活の習慣まで違うので慣れるまでは大変だと、一般的には言えるのであろう。が、日本とフランス。同じ先進国であるし、いろいろな情報もあらかじめ手に入れることができたので、フランスでの生活は初めからほとんど問題なく始めることができた。唯一の問題は、フランス語。この言葉の壁はかなり厚く、かなり慣れてきたとはいえ、まだレベルは子供なみ。まあ、言葉については、2、3年はこちらで暮らさないとダメだと割り切って、あまり気にしないのがいい。
それでも、やはり日本との違いは多い。こちらで生活を始めてみて不思議に思ったり面白いと感じたことを、忘れないうちにメモしておくことにしよう。すでに慣れてしまって、あまり不思議でもなくなってしまってきているので。
ニースの海岸
◆不思議−その1 「バスがストでも影響なし?」
フランスでは、ストライキが多い。「ストライキ博物館」を作ろうということさえ言われるほどの数である(「ストライキ博物館」はもちろん冗談)。飛行機・国鉄・バスを初めとして、運送、新聞、そして医者までもストライキをしている。この他、いろいろな会社などをいれたら毎日のようにどこかでストライキをしているような
感じだ。フランスでは、電話に簡単な端末を取り付けて情報にアクセスする「ミニテル」というものが普及しているが、このミニテルにはストライキ情報を提供するコーナーさえあるそうだ。確かに失業問題は深刻そうである。しかし、一般のフランス人の生活がそれほど悪いとは思えないのに、ストライキがこれほど多いということ自体不思議といえば不思議である。が、さらに不思議なことがある。ニースでは、この2月に半月余りにわたって市内のバスが全面的にストで止まってしまった。これだけ長いストライキなので、影響はかなりあるはずなのだが、街の中は平穏そのもの。バスが走っていないだけ、より「静か」な感じさえした。日本だと、大騒ぎになるところだが、ニースの人はバスがストくらいではビクともしないのだろうか。普段、バスの利用者はかなり多いはずなのだが。(注:特に老人などで普段バスに頼っている人は、確かにかなりの不便を強いられていたようです。なお、「あすてろいど」18号も参照してください。)
◆不思議−その2 「バスの運転手と世間話」
そのバスであるが、よく運転手と長話をしている人を見かける。道や停留所を聞いている人は沢山いるが、そうではなくて、どうも世間話をしているようなのである。ただでさえごちゃごちゃした道を走っているので、運転は大丈夫かなと心配にはなるが、それよりも一体何を話しているのだろう。話をしている乗客は、移動するためにバスに乗っているのではなく、運転手と話をするために乗っているかのようだ。やはりフランス人は話好きなのだろう。ニースの市内バスの座席には、向かい合ってすわるような席がいくつかあることが多いが、これもそのためであろうか?
さて、ニース市内から天文台方面に行くバスは、利用者が少ないせいか、座席が10くらいしかないミニバスである。運転手も、乗客だけでなく道路沿いに住む人と顔なじみのことが多く、しょっちゅう挨拶を交わしながら運転している。ある時など、乗客の1人が取ってきたばかりのさくらんぼを運転手にあげていた。すると、運転手が居合わせた乗客にそれを配っていた。こんなことが起こるのも、フランスならでは? (それとも、天文台バスが特殊なのかも。)
フォークダンスのお祭り
◆不思議−その3 「二重列駐車の内側の車はどうする?」
ニースも車の量はかなり多い。すると、問題はパーキング。有料駐車場もかなりあるのだが、やはりなるべく近くに車を止めたいから、結局、路上駐車となる。したがって、ほとんどの道の路肩に、車が止められることになる。それならばと言うわけでもないだろうが、路肩を有料のパーキングとしてしまっているところもかなりある。 さて、路肩がふさがってしまっている場合にどうするかというと、さらにその外側に車を止めてしまうのである。勿論、道幅がないと道をふさいでしまうことになるので、ある程度広い道でのことであるが、このような二重列駐車をかなり見かける。それで、不思議なのは、二重列駐車をされた内側の車がどうやって出るか。まあ大抵は二重列駐車をした人は、そばにいることが多いので、クラクションを鳴らしていれば、そのうち出てきて車をどけてくれるようである。どうしてもダメな場合には、警察を呼んでレッカー移動でもしてもらうのだろうか。 駐車違反については面白いことを聞いた。駐車違反には2種類ある。そもそも車を駐車してはいけないところに駐車するものと、上記の路肩有料パーキングにお金を払わないで駐車するか、払っても時間が過ぎてしまっているものである。どちらが検挙されやすいか。常識的には、駐車をしてはいけないところに駐車をするのがより悪質なのでこちらが検挙されやすそうだが、実は、有料パーキングの無断駐車の方が4倍くらい検挙されやすいそうだ。その理由は、担当する部署が違うから。悪質な方の駐車違反は警察が担当だが、有料パーキングはそうではないらしい。ただ、罰金の方は悪質な方が4倍くらい高いので、バランスがとれているとか。(注:「駐車違反」の話は、フランス人の友人から聞いたものです。警察等に確認したわけではありません。)
恐竜展開催の宣伝カー
◆不思議−その4 「服はファッショナブルでも車はボコボコ」
もう1つ車の話。フランスは世界のファッションの中心の1つ。確かに、街中を歩いている人のファッションは、センスのいいものが多い。ところが、目を車道に移すと、そこには、日本だととうに廃車になっているような車が沢山通っている。まあ、日本の車のようにピカピカにワックスがけしてあるような車は滅多に通らずに普通汚れているというのはいいとして、へこんだり傷ついたりしている車が非常に多い。場合によっては、窓が壊れているのを、ビニールシートとガムテープで「補修」しただけの車さえある。車もこれだけ使ってもらえれば本望だろう。 最初、ファッションと車にこれだけギャップがあるのが面白かった。が、よくよく見てみると、必ずしもみんなが服のセンスがいいわけではない。センスのいい人が目立つだけだ。車も、「普通」のものも結構ある。ということで、それほど不思議ではないのかもしれない。それにしても、ボディーがへこんでいる車が沢山あることだけは事実で、それだけフランスでは運転には注意ということ?
◆不思議−その5 「道が犬の糞だらけにならないのは?」
道を歩くときに注意しないといけないことが3つある。第一に車にひかれないようにすること、第二にスリなどの物取り、そして第三に路上の糞である。フランス人は犬が好きで、道に出れば必ず犬を連れている人を見かける。犬は当然、生理現象でするものをする。特にマナーのいい飼い主は片づけているようであるが、普通はそのままとなる。道はどこも石やコンクリートで覆われているので、そうするとすぐにでも道じゅうが糞だらけになりそうだ。が、いつも道には「一定量」しかない。なぜだろう? 実は、毎日明け方に、清掃局(?)の人たちが道の掃除をしているのである。もちろん、犬の糞だけでなく道のゴミを片づけているのであり、そのために、街が常に一定のきれいさに保たれているのだ。さすが観光の国フランスというところだが、裏を返せばそれだけ多額の税金が使われているということ。個人個人がマナーを守れば無駄なお金を使わなくて済むとは思うのだが、そうも言っていられないのが、フランスであろうか。
かご作りの職人さん
◆不思議−その6 「オーバーを着た人の脇で泳いでいる人」
ニースは世界的な保養地の1つ。真冬でもそれほど寒くはならない。それでも、ニースの人にとっては寒いようで、冬になると多くの人はオーバーなどを着て外出する。筆者のように寒さに慣れていれば冬は非常に楽で、オーバーなどいらない。しかし、さすがに海で泳ぐような陽気ではない。 ところが、その冬の海で、毎日のように泳いでいる人を見かけた。勿論、修行などをしているのではなく、泳ぐのを楽しんでいるのだ。このことを話すと、それはロシア人だろうという人がいた。一瞬、納得してしまったが、実際は必ずしもロシア人ではないようだ。要するに、オーバーを着たいから着る、泳ぎたいから泳ぐ。それだけなのだ。まわりの目などは気にしない。逆に、まわりも、他人が何をしていようが、自分に不都合でない限り、気にかけない。これが、フランス人の最大の特質だろうか。
◆不思議(7) 「幼稚園の入園」
最後に幼稚園の話。フランスで公的な手続きをしようとすると、よく時間がかかることがある。例えば、3か月以上フランスに滞在する場合には、あらかじめビザを取得しておく以外に、フランスで「滞在許可証」というものを取得することになっている。各種書類を添えて、滞在許可証を申請して8か月。今だに許可証が発行されない。果たして帰国までに発行されるかどうか。また、電話の手続きでも、やりとりがうまくいかずに電話が使えるようになるまで3週間もかかった。 ところが、である。幼稚園の入園については至って簡単。幼稚園で校長先生(園長先生?)に会って話をし、簡単な書類を2枚ほど書いて手続き終了。あとは100フラン(約2千円)を払っただけ。学年の途中からの入園であったし、外国人用の幼稚園ではなくフランスの普通の幼稚園だったのでかなり手続きが面倒かと思っていたので、拍子抜けした感じだ。しかも、授業料は無し。上記の100フランは園児が使ういろいろなものの実費であるようだ。これは「不思議」といってはフランスに失礼になる。これだけ、フランスの福祉が進んでいるということであろう。
不思議に思ったことを簡単に記すつもりだったが、少し長くなってしまった。勿論、この他にも日本と違う点は多い。これらについては、また別の機会にでも紹介したい。このような習慣の違いに直面することが、異国での生活の面白さである。
(1997年9月2日:バカンスも終わりに近づいたニースより)
日本のマンガ・アニメは大人気! 外国でテレビを見ると、日本のアニメをよく目にしますが、フランスも例外ではありません。こちらでも日本のアニメはかなり放送されており、アニメとしては日本のものを中心に放送しているようにみえるチャンネルすらあります。参考までに、その内容: ある土曜日の朝: セーラームーン、ドラゴンボールZ、あられちゃん ある日曜日の午前中: ナディア、ハイジ(?)のようなアニメ、アタックNO1、 メゾン一刻、ベルサイユのバラ(?)のような少女アニメ、 シティーハンター、パトロボ(?:大きなロボットで戦うもの)、 うる星やつら、?(宇宙戦士もの) アニメにはあまり詳しくない(?)ので、名称が正確でなくて申し訳ありませんが、これらが連続して放送されます。日本でも、これだけ続けて見ることはできませんね。(ちなみに、アタックNO1の主人公の名前はアリスで、メゾン一刻の管理人さんの名前はジュリエット。うる星やつらのラムはLamu。) ここに書いたものはしばらく前の内容ですので、今ではまた少し変わっています。この他、別のチャンネル・時間帯でもいろいろやっていると思います。たとえば、「キャプテン翼」や「ムーミン」などもみかけました。音声はフランス語吹き替えですが、画面に出てくる日本語の文字やフランスの人では分からない状況につては、 字幕スーパーで説明が出ます。 ついでに、街中の本屋やスーパーなどで、日本の漫画も売られています。フランス語でもMANGAで通じます。フランス語訳になっているものが普通ですが、日本で売られている単行本の漫画がそのまま置いてあるのも見かけました。フランス人が買うのでしょうか。ニースで、「日本アニメ専門店」(というかほとんど「ドラゴンボー ル専門店」)を1件見つけました。ここでは、日本のコミック誌すら置いてありました。日本は、漫画・アニメについては文化の輸出国ですね。 |
下の写真は絵はがきからとったものですが、吉川さんによりますと、このような光景は身近でよく見られるそうです。それでも天体力学の研究を中心とした生活をしておられるということです。
==[編集室からの註]おわり==