今月のイメージ     

    -地球に大接近する

       小惑星見つかる!!- 


 スペースウォッチ計画(キットピーク天文台)の探索で見つかった小惑星1997XF11は、マスコミによる多少オーバーな報道もあり、かなりの関心を呼んだ。この小惑星に関する詳しい情報とその後の経過については吉川さんが解説されている(4〜6ページ)。このような地球に接近し、場合によっては将来地球に災害をもたらすかもしれない小惑星(PHSs:Potentially Hazardous Asteroids とも呼ばれる)は、すでに106個を数えるという。

 JSGAではこのような天体の情報を漏れなく、且つ正確に把握するために、全地球的規模でのシステマティックな探索を目指している。このためには地球上に適切に配置された望遠鏡(月面や軌道上への配置も含む)がないと始まらない。しかしそれだけでなく、その膨大な観測データの処理、蓄積されていく多数の天体の軌道管理、広報や必要なデータを研究者に提供するといった仕事を行う、データセンターが必要になる。これは非常に大変な仕事ではあるが、もちろん技術的には可能である。しかし今回のニュースは、得られた情報を管理し公開していく、ということが極めて難しい問題を内包していることを改めて暗示してくれた。

 天体衝突は、太陽系の生成と進化を促した主要因であるだけでなく、地上生物の進化や絶滅でも大きな役割を果たしてきたことが広く認識されるようになっている。地球へ小惑星が衝突するということは特異な現象でもなく、太陽系の時間スケールで考えれば常時起きているわけである。実際、1994年7月にはシューメーカー・レビー9彗星の木星への衝突を目の当たりにした。

 ところでNEOのシステマティックな探索が国際的な規模で行われるようになると、PHSsと呼ばれる天体の数も飛躍的に多くなるであろう。衝突という面からみると、今回の1997XF11よりはるかに危険な天体が、いくつも見つかるかもしれない。天体の接近や衝突の予測は、ある程度の観測データが得られれば極めて正確に行うことができる。一方、天体の衝突のもたらすエネルギーは一般に人間の想像を絶する大きさであり、それによる災害の規模は、我々が日頃持っている防災とか避難といった概念を無意味なものにする。

 もしこのような災害をもたらしうる天体の情報が幾ばくかでも集積されてきたとき、公表するニュースだけでなく、データセンターに蓄積された情報に強い関心が寄せられることは疑いがない。場合によっては憶測でのうわさやデマが、多くの人々に不必要な不安や恐怖を巻き起こし、不測の事態への発展ということも起こりうる。たとえデータセンターが持っている情報をすべてを公表したとしても、重大な情報がまだ隠されているのではないかといった、一般の人々の間に疑心暗鬼を生じかねない。もっと恐ろしいのはこのようなことが意識的に利用されることである。

 それではこの問題をどう考えたらよいか。これは決して簡単なことではない。地球に接近する天体についてわかっている情報と、それに対する冷静で科学的評価をすべての会員で共有する、というのがJSGAの基本理念である。常にこのことを心がけることはぜひ必要であろう。しかし、台風や洪水、あるいは地震や津波の予測とちがって、場合によっては我々にとって逃げ場のない災害予測をしなければならない、ということも起こりうる。したがって天体観測が進むほど、その根底に眠るデータ、あるいは情報管理の問題がむくむくと目を覚ましてくるわけである。この問題はこれから大いに検討すべき課題である。

 メキシコ、ユカタン半島の先端にあるマヤ後期の遺跡チチェン・イツァ。そこにはマヤ人たちが天体観測に使ったドーム状の建物が残っている(写真)。実はこの天体観測所の下にはとんでもないものが眠っていた。巨大なクレーターの痕跡が、この付近の地下に発見されたのである。6500万年前、恐竜を含む生物の大絶滅を起こす原因となった天体衝突が、当時まだ海底にあってこの地で起こったというわけである。     (写真とエッセイ:由紀 聡平)


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