NEOの追跡観測

                磯部 秀三(国立天文台)

            David John Asher(通信総合研究所)        


 地球近傍小惑星(NEO)の検出は、小惑星の地球衝突を避ける上で重要である。この検出のための望遠鏡としては、アリゾナ大学のスペースウォッチ望遠鏡が活躍しており、アメリカ空軍のハワイとニューメキシコにあるスペース・デブリ観測望遠鏡GEODSSもかなり貢献している。そして、検出されたNEOは400個をはるかに越えている。直径1km以上のNEOは数千個もあり、その全検出を完成するまでには、小さなものも同時に検出されるので、全体では何十万個にもなりうる。

 NEOは、太陽の周りを軌道運動をして、星々の間を動いていく。1回の観測で天球上の位置(赤経、赤緯)を決めるだけでは十分ではなく、少なくとも3回の観測によって軌道要素を決定しなければならない。太陽と小惑星の2体だけであれば、これで小惑星の将来の位置を計算できる。しかし、実際には観測には誤差があるし、他の惑星などによる摂動作用(引力の影響と考えてよい)によって、遠い先の時刻になるほど、計算位置に誤差が大きくなる。そしてあまり長い期間追跡観測をしていないと見失ってしまうことになり、再び検出という作業をしなければならない。

 どれくらい先の時刻まで、正しい計算ができるかは、1回の観測の精度にもよるが、より重要なのは、どれくらい長い期間にわたって観測があるかによっている。特に、新しい小惑星を見つけた直後には、少なくとも3回の新月期間(約2カ月あまり)の観測が大切である。後は1年後、3年後、10年後の観測があれば、かなり正しい軌道決定ができ、数百年先までの地球衝突の可能性を議論できるレベルになる。そういった意味で、検出された小惑星を追跡観測することは非常に重要である。

 地球近傍小惑星の検出網も十分ではないが、上記のような意味での追跡観測はより不足している。しかし、検出観測はどこにいるかわからない小惑星を見つけるのであるから、広い視野が必要であるが、追跡観測する小惑星はその大体の位置がわかっている(表1)ので、視野の狭い通常の望遠鏡でよい。また、その天球上での動きがほぼわかっているので、その方向に望遠鏡を動かしながら観測すると露出時間が長くとれ、口径の小さな望遠鏡でも暗いものまで観測できる。より多くの人が追跡観測に参加することが望まれる。

表1 地球近傍小惑星の毎時の赤経・赤緯の値が計算され、前もって公表されている。表の最上段は計算した年月日と観測予定年月日。1996SK等は小惑星の名前。その後は、6つの軌道要素等である。表は年月日、時刻(世界時)、赤経、赤緯、地球からの距離、太陽からの距離、明るさ(等級)、移動速度、移動方向が示されている。

 たくさんの地球近傍小惑星の中からどれを優先的に観測するかは観測者しだいである。より効率的な観測を行うための指標として、それぞれの小惑星が最近に観測された日時の表が示されており、これは通常毎週新しいリストに更新されている(表2、3)。

表2 1回の衝(太陽−地球−小惑星が並ぶ時、真夜中に南中する時)の期間しか観測されていない地球近傍小惑星のリスト。表は、小惑星の名前、最近の観測年月日、その観測所番号、絶対等級(1天文単位にある時の明るさ)、等が示されている。

表3 2回以上の衝の期間しか観測されていない地球近傍小惑星のリスト。

 ある観測の夜には、その夜に見られる表2、3の小惑星を順次選び、表1のリストからその夜のその時刻の位置に望遠鏡を向ければよい。もう少し長い目で見ると、それぞれの小惑星がいつ観測に適した時刻かを示しておいた方がよい。そのような目的のために、図1のようなものが各小惑星に対して描かれる。赤緯が高い方が観測しやすい。位置決定誤差が小さく、太陽から離れて、明るく、銀河面内にない方が観測しやすくなる。そのような条件を合わせると、図1の1983QCという小惑星の観測チャンスは、1997年1月2月の次は2000年7月8月ということになってしまう。つまり、1997年にはぜひ観測しておきたい小惑星の1つといえる。より緊急を要するものは、表4の形で出されている。これは、その時刻にぜひ観測してほしい小惑星である。

表4 緊急に観測するべき、小惑星のリスト。

図1 小惑星1983QCの観測条件は、それぞれ異なる。上から、赤緯、位置精度、太陽からの角距離、等級、銀緯を示し、実線の部分がその条件の下での観測に適した時期。全ての条件が満足するのは、1番下の黒い部分になる。

表5 1回の新月前後の期間の観測の誤差(中野主一氏計算)

 このようにして観測したデータを小惑星センター(MPC)や中野主一さんに報告すると、表5のように多くの観測の結果求まる軌道位置と観測の軌道位置の差が求まる。精度の悪い観測は括弧をつけて示されている。そこに示された690とかいう番号は観測所固有の番号で木曽観測所は381である。

 追跡観測をしている観測所は多くはない。それらの中でかなり多くの地球近傍小惑星の追跡観測している観測所で小惑星の数(観測の数ははるかに多い)を表6に示す。この表を見ると私達もかなり頑張っていることがわかるが、もっと多くの追跡観測が必要である事も明らかである。

表6 各観測所が追跡観測した地球近傍小惑星の数。


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