磯部 秀三(国立天文台)
日本スペースガード協会が地球近傍小惑星観測による世界への貢献の重要性を強く訴えていたのに対して、科学技術庁がかなり前向きに検討され、科学技術庁の施策として可能な案として、スペース・デブリと地球近傍小惑星(以下NEO・デブリと略記)観測望遠鏡の建設を地域振興費を使って実施することが4月20日に発表された。計画は2つのプロジェクトに分かれ、1つは岡山県上斎原村に建設する低軌道デブリ(LEO)を検出するレーダー望遠鏡と岡山県美星町に建設する静止軌道周辺デブリ(GEO、GTO)とNEOを検出する光学望遠鏡で、総額約20億円である。
この計画は財団法人日本スペースフォーラム(JSF)が建設運用を担当することが決定しており、日本スペースガード協会にも協力が要請されている。本来ならば、光学望遠鏡部分は当協会が公式に担当したいところであるが、当協会はまだ法人格を持っていない私的な団体であるので、法人格が得られるまではそのような主張を残念ながらすることはできない。
JSFは、当然の事とはいえ、当協会に好意的に対応され、スペース・デブリ・地球近傍小惑星(NEO・デブリ)観測施設に関する調査検討委員会8人の委員のうち当協会から会長の磯部と運営委員の吉川の2人を入れている(レーダー観測と光学観測の専門家が4人ずつである)。その第1回委員会が6月4日に全委員の出席で開催され、光学観測分科会が6月9日に4委員の出席で開催された。そこでは、下に示すような望遠鏡の提案をした。予算との兼ね合い等があり、まだ検討を続けなければならないが、おおむね委員会での賛同が得られた。
9月24日(予定)の委員会において最終仕様と運用形態を決定して、11月に競争入札される予定である。0.5m望遠鏡は1999年度初めに完成と少々慌ただしいスケジュールである。1.0m望遠鏡は2000年度初めにテスト観測を始め、2001年度初めに完成の予定である。
別掲の記事にあるように、アメリカでの検出観測が加速している。日本も少々遅ればせながら世界の小惑星検出のうち数十パーセントの貢献をし、2010年代には直径1km以上の人類絶滅させ得る小惑星を全て検出したいものである。
提案している望遠鏡案概要
この光学観測施設により、直径1km以上のNEO,直径50cm以上のGEO, GTOの観測および、直径数十cm以上のLEOのテスト観測を行う事を目標としている。そのために必要な性能要求は下記のようなものとなる。なお各性能は1.0m及び0.5m望遠鏡に共通で、特に0.5m望遠鏡で異なるものは[ ]で示した。
1. 総合性能緒元
( 1 )観測波長範囲: 4700A〜10000A
( 2 )主鏡: 有効口径1.0m以上(外径はTBD) [ 0.5m以上 ]
( 3 )焦点モード: カセグレン焦点
合成F比は3とする [ 合成F比は3以下とする ]
( 4 )星像の分解能(シーイング・追尾の影響は除く):
幾何光学的に全視野において1.0秒角以内[ 3.0秒角以内 ]に80%以上の光が入ること実際のテストはハルトマンテストで行う
( 5 )視野直径: 3度角(ケラレなし)の視野とする [ 1.5度角 ]
( 6 )焦点面: 視野内で平面とする
( 7 )焦点面深度: (4)、(6)の条件は焦点面前後の40ミク ロン幅で成り立たなければならない[ なし ]
( 8 )駆動範囲: 天の北極の周辺3゜以内を除き全天をカバーできるようにする
( 9 )最大追尾速度: TBD 赤経・赤緯共5゜/sec以上
(10)最大駆動速度: TBD 赤経・赤緯共10゜/sec以上*
(11)最大駆動加速度: TBD 0.5゜/s2以上*
(12)指向精度の再現性: 5秒角rms(ポイティング解析補正後)* 10秒角rms
(13)追尾精度: 1秒角rms/30分*
(14)架台の方式: フォーク式赤道儀台方式
(15)角度検出誤差: 0.1秒角以下とする 0.5秒角以下とする
(16)角度表示: 0.02秒角とする
(17)予定している観測装置: 1. 冷却テストCCDカメラ 2. 冷却モザイクCCDカメラ
[ 冷却CCDカメラ ]
(18)カメラ: 視野3゜をカバーするCCDカメラ 視野2.0゜
* 角度検出誤差:駆動部、軸受のガタ及び鏡筒(主鏡、副鏡を含む)架台の自重変形及び温度変化によって
生じる誤差のうち再現性のないもの
注)表中0.5m望遠鏡のところで、ブランクになっている所は1.0m望遠鏡と同じ事を示す。