今月のイメージ       


 1998年の11月18日、もっと正確には午前1時過ぎ、起き出して外にでてみると満天の星空であった。つい欲を出して少しでも展望の開けたところと思い、近くの山に車を走らせた。庵から30分程の距離であるが、実に多くの車に行き会った。ラジオの深夜放送も、各地での観測情報やリポーターの報告を逐次流している。これでは誰でも少し外に出て見ようという気になる。それでこんな真夜中に、真っ暗な山道を車が右往左往しているのだ。「あまり騒ぎすぎると流星の方が遠慮してしまうのでは・・・。」自分のことは棚に上げて、勝手な心配をする。そして、その予感は目的地に着く前に的中した。何と車の外を雪が舞いはじめたのである。しばらく様子を見ていたが、雪はだんだん激しくなってくる気配であった。ここにいては我が生涯で二度と見ることができない天体ショウを見損なってしまう。あわてて家の近くまで引き返す。そこには出かける前と同じ、満天の星空が広がっていた。ときおり、明るい、見事な流星がその星空を横切っていった。しかし、そのうち悪い予感は再び頭をもたげてきた。流星群のピークは4時過ぎということであったが、その時刻が迫ってきても流星の増える気配は一向に見られなかった・・・。似たような体験をされた方も多かったのではないだろうか。マスメディアの影響は大変なものである。ところによっては車の渋滞さえ起きたようだ。それは別にして今回、残念ながら期待した程の流星雨の出現はなかったが、それでも時折眩いばかりに明るくバーストした、すばらしい火球が見られた。(写真)

 ところで昨年のNEOに関するニュースで最も注目を集めたのは、小惑星1997XF11に関するものである。1997年12月6日、スペースウォッチプログラムで発見されたこの地球近傍小惑星は、2028年10月の地球接近時の距離は0.00031天文単位、すなわち50000km程になるというものである。これは月までの距離380000kmよりはるかに小さく、MPCのMarsdenはプレスリリースの中で「実際に地球に衝突する確率は小さいが、まったくないわけではない。」と記述した。このニュースは世界中を駆けめぐり、日本でも様々な報道がなされた。中には世紀末の不安感を煽るような、かなり派手なものもあったようである。この報道がなされた後で、何人かの小惑星探索の専門家は過去の観測記録(写真乾板)の中にこの天体が写っていないかどうかを調べた。特にJPLのHelin等は1990年に撮影したものの中に1997XF11の像を発見、Yeomans等はそれを基にした再計算によって、2028年の再接近距離が0.00638天文単位、すなわち954341kmであることを指摘した。これは月までの距離の2倍よりはるかに大きく、地球に衝突する確率はゼロと考えてよい。
 実はこのニュースに関連しては、NEO問題に関心を持つ研究者にとって幾つかの今後考えるべき課題が明確になったような気がする。その一つは発表前にもう少し予想を精密にする努力がなされるべきではなかったかということである。小惑星の軌道決定精度は、使用する観測データ量に大きく依存する。新しい特異天体が発見されたとき、既に得られている、あるいは得られているかもしれないその天体の情報が十分活用されるような、観測者間の連携の重要さを、改めて確認させてくれたのである。また別の課題として、このようなニュースが、マスメディアを通してどのように報道されるかを、本格的に研究する必要があるということである。特に天体衝突を扱った映画や小説では、矢野さんも指摘されているように(21頁)、かなり特異な問題の捉え方が見られる。また古宇田さんのエッセイ(5〜7頁)にあるように、研究資料などは、その書かれた背景を十分理解していないと、大きな誤解をまねきやすいものである。JSGAの主要な活動の一つは、NEO問題の啓蒙にあるが、これは最も重要で、最も難しい問題かも知れない。

 今回のしし座流星群出現のピークは半日程前にずれて、欧州や大西洋地域で大出現があったということである。しかし次のような希望を与えるニュースもある。「国際流星学会は、1998年のしし座流星雨がいくつかの点で1966年のすばらしい流星嵐に先行した、1965年の流星雨に似ていることを示唆している。」そうであるとすれば、1999年のしし座流星群こそ、壮観なものとなるはずである。しかも今年の最適観測地域は欧州や北アフリカと予想されている。昨年予想が半日ずれたのなら、今年だって半日ずれるに違いない。そうなれば世紀末を飾るに相応しい大流星嵐が、日本で見られるということになる。今から心が踊り、不景気で滅入っている気分を一掃してくれる。いやいや、ニュースソースの内容と背景についてよく理解しないまま、都合良く利用して話を展開する、最も慎むべきことではあります。
                      (由起 聡平)


[写真の説明]

          「今月のイメージ」に関するノート   
        しし座流星群11月18日 4:13:54sc JST
                 −撮影は野辺山高原−                                            渡辺 文雄

 流星雨になるか?とだいぶ騒がれた、しし座流星群でしたが、極大予想が半日程度ずれたため、日本では通常の年とあまり大きな差はなかったようですね。私は、17日からしか観測できませんでしたが、菅平高原の友人宅に流星飛跡による電波反射(VHF)の観測装置を置かせてもらい、私自身は菅平の天候が思わしくなくなってきたため、21:00頃に野辺山に向かいました。国立天文台野辺山電波観測所の北側の周囲の明るさの影響の無いところに陣取って極大の時間を待ちました。観測器材と言えば、赤道儀に4台のカメラを載せたものと、Video撮影で、発電機を回して電源を供給しているため、この発電機が一番重い器材になってしまいました。カメラは28mmの広角レンズが2台、16mm対角魚眼レンズが1台、24mm広角が一台の計4台で、16mm広角を付けた火球パトロールカメラはISO400のフィルムをいれて8分露出に設定したインターバルタイマーで勝手に写真撮影をしていきます。
 この写真は、火球カメラが捕えた、4:13:54秒に出現した−6〜−8等級と言われる火球です。日本流星研究会の暫定的な分析によると、発光点は北緯35度03分5秒・東経139度05分付近、高度約115Km。消滅点は北緯35度07分5秒・東経138度51分付近、高度約75Km、地表面に対する突入角度は約60度・実際の飛行経路の距離は45Km と言われています。しし座流星群の平均的な速度は72Km程度と言われていますので、発光時間はおよそ0.6秒となるはずでが、私のVideo観測から時間を測定すると、最後に爆発した影響か、もう少し発光時間が長くなっています。本格的な分析にはまだ時間がかかります。


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