いよいよ1999年:千年に一度の世紀末
       −天体衝突、グランドクロス、惑星直列−

                      吉川 真(宇宙科学研究所)


 いよいよ1999年、西暦で千の位が1である最後の年です。世紀末というのは百年に一度巡ってくるものですが、今回は、千年に一度の「世紀末」とも言えます。そして、21世紀まであと2年を切りました。世紀末というと何か、暗いイメージがあります。そうでなくても、最近の世の中、少しおかしなことばかり。どうにかしてこの世紀末を乗り越えて、21世紀に夢を託したいと思うのは私だけではないでしょう。
 さて、1999年というと、有名なものがノストラダムスの大予言。あまり詳しくは知りませんが、とにかく「7の月」に世界が破滅するようなことが起こるとのこと。この予言の話を最初に聞いたのは、まだ小学生の頃でした。その頃は、1999年なんて遥か未来のことと思っていたのですが、ふと気がつくともうその年なのですね。あまり、たいした意味はないのですが、ちょっと感慨深いものがあります。

 それで、1999年に何か世界が破滅するようなことが本当に起こるのでしょうか。未来のことは分かりませんから何とも言えませんが、世の中の様子を見ていると、ほとんどの人はこの予言を信じていないことだけは確かなようですね。もし、多くの人がこの予言を信じているとしたら、世界の破滅をあと数ヶ月後にひかえて、こんなにのんきにしていられるはずはありません。(もちろん、現実の世界は‘のんき’からはほど遠いものですが、それでも世界の破滅が間近というのとは違いますね。世界の破滅が間近というのは、映画の中だけです。)
 世界の破滅ということについてですが、スペースガードの対象である天体の衝突ということから見ると、分かっている限りは1999年に天体が地球に衝突したり非常に接近するようなことはありません。表に、1999年に予想されている天体の接近のリストを示します。これは、マイナープラネット・センターが距離が0.2天文単位(約3000万km)以下の接近を予測しているデータから抜き出したものです。1999年には7件の接近が起こることがわかります。ただし、最も接近距離が近いものでも6月2日に小惑星ゴレブカが地球から748万kmまで接近するくらいです。地球から月までの距離が約40万kmですから、全く衝突する恐れはありません。

 余談ですが、このゴレブカという小惑星には、思い出があります。それは、1995年、私が通信総合研究所の鹿島宇宙通信センターにいましたとき、観測をした小惑星なのです。観測といっても望遠鏡で見たわけではなく、アメリカの方から電波をこの小惑星に当ててもらいその電波が反射してくるのを鹿島にある直径が34メートルのパラボラ・アンテナで受けるということをしたのです。このような観測はレーダー観測と呼ばれますが、これは日本で初めてのレーダーによる小惑星の観測でした(観測は鹿島宇宙通信センターの小山泰弘さんが中心になって行われました)。実は、この小惑星の名前のゴレブカ(Golevka)の‘カ’は鹿島(Kashima)のカなのです。レーダーの電波を出したところがアメリカのゴールドストーン(Goldstone)というところで、小惑星によって反射されてくる電波を受けたのが、同じゴールドストーンとロシアのエブパトリア(Evpatoria)と鹿島でした。この3つの地名の最初の方の文字を並べたものが、この小惑星の名前となったのです。

 話を戻しますが、現在までに発見されている小惑星については1999年に地球に衝突する恐れはありません。ただ、確かに発見されていない天体が沢山ありますから、これらについては何とも言えません。まあ、直径が1キロメートル以上の天体が地球に衝突する確率は10万年に一度くらいですから、そのような衝突が1999年中に起こるという可能性は非常に少ないことだけは確かです。

   1999年に地球に接近する天体
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小惑星番号 名称・仮符号   接近日・時刻       接近距離
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1994 WR12     1999年 1月 17.61日   1910 万km
1991 VE     1999年 1月 18.91日   2353
(6047) 1991 TB1   1999年 3月 18.52日   2441
1992 SK      1999年 3月 26.26日 836
(1863) Antinous    1999年 4月 1.61日 2833
(6489) Golevka    1999年 6月 2.81日 748
1989 VA   1999年 11月 21.89日 2899
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(マイナープラネット・センターのホームページより)

 さらに、1999年についてはよく問題とされることに「グランドクロス」というものがあります。これについても、私の方は全く詳しくないのですが、8月18日くらいに惑星の配置が地球を中心にして十字型になるというもののようです。そのようなことが起こると地球に何か異変が起こるという話があるようですが、これは全くのうそです。惑星の配置がどのようになろうとも、地球やそのほかすべての太陽系天体について何の変化もありません。もちろん、常に天体間には引力が働いているわけですが、その働き方は惑星の配置によって特別に変化するようなことはありません。

図1 グランドクロスが起こるといわれているとき(1999年8月18日)の惑星の配置。この図では、中心に地球があり、地球からの距離が対数のスケールで描かれている。そのために、軌道の形がゆがんでいる。このような書き方をした理由は、内側の惑星と外側の惑星とではその軌道の大きさが違いすぎるため、普通のスケールでは1枚の図に描けないためである。この図では、地球から見た方向は正しく描かれている。+印は太陽。確かに、地球を中心にして十字形に惑星が配置しているが、あまりきれいな十字形ではない。

 惑星の配置で最もよく問題として取り上げられることに、「惑星直列」というものがあります。これも、「惑星直列」というと何かとんでもないことが起こるような気がするかもしれませんが、実際は何も起こりません。ちなみに、次に惑星直列が起こると言われているのは、西暦2000年の5月20日で、このときには7つの惑星(天王星と海王星を除く)と太陽とが割と一直線に近い状態になります(そんなにきれいな一直線ではありませんが)。このときにも何か特別なことが起こるというような話がありますが、これも全くのでたらめです。
 確かに天体の配置によって地球にかかる引力の大きさは変わります。ただし、これは、特定の配置に 何か特別な意味があるのではなくて、単に地球と各天体との間の距離が変わるために、常に起こっていることです。もちろん、惑星が一直線上に並べば引力が合わさって強くなりますが、これは非常に微々たる影響でしかありません。それに、そもそも惑星から地球に及ぶ力は、太陽や月から地球に及ぼされる力に比べて非常に小さいのです。
 細かいことはここでは省略しますが、他の天体の引力が地球の表面付近の現象に及ぼす影響を考えるときには「潮汐力」というものを考えます。これは、その名の通りに、海の潮の満ち引きを起こしている力ですが、普通の力(万有引力)とは違って天体間の距離の3乗に反比例するような力です(万有引力の場合は距離の2乗に反比例します)。地球に最も大きな潮汐力を与える天体は月で2番目が太陽です。
 まず、潮汐力の大きさからみてみましょう。最も影響の大きい月からの潮汐力の大きさを1とすると、太陽からの潮汐力はその半分の0.5くらいになります。次に大きな潮汐力を及ぼす天体は金星ですが、最大でも月による潮汐力の1万分の1くらいにしかなりません。その次は木星や火星の潮汐力になりますが、これらは月の10万分の1程度です。この他の惑星に至っては、さらに桁違いに小さくなります。このことから、月・太陽以外の天体の影響は非常に小さいことが分かります。

図2 2000年5月20日の惑星直列のときの惑星の配置。図の描き方は図1と同じ。天王星と海王星を除いては確かに直線に近い配置にはなっているが、一直線というほど直線的ではない。

 次に、潮汐力の大きさの変化についてみてみましょう。地球と月との間の距離はほぼ周期的に変化していますので、そのために月からの潮汐力の大きさも常に変化しています。この変化の大きさは、月からの平均の潮汐力に対して4割くらいになります。これに対して、惑星からの潮汐力ですが、その変化の大きさも金星の場合が最大で、月の潮汐力の1万分の1程度です。それ以外の惑星については1桁以上小さくなります。つまり、惑星からの潮汐力が互いに重なって強めあったとしても、月による潮汐力の変化のやはり1万分の1程度の影響しか及ぼさないことになります。
 逆の言い方をすると、確かに惑星直列によって地球にかかる潮汐力は強められることはありますが、その大きさの1万倍くらいの影響が常に月から地球に及ぼされているということです。月は昔から地球の周りを運動していますが、そのことによって地球には何も異変は起こっていません。したがって、月の影響の1万分の1くらいの影響が惑星直列によって及ぼされたにしても、地上に何ら異変は起こらないということになります。
(注意:地球の公転運動に与える影響を考える場合には万有引力そのものを考える必要がありますが、その場合も惑星からの引力は非常に小さくて、最大でも太陽からの引力に比べて千分の1以下です。)

 このように、惑星がどのような配置になろうと、地球に何か影響が出るようなことにはなりません。惑星の配置が重要なのは、占いの世界だけだと思います。一部には、天体の衝突とかグランドクロス・惑星直列などを騒ぎ立てたがる人がいるようです。占いを楽しむのは結構ですが、このような問題については是非、科学的に正確に理解してほしいものです。

最後に、1999年が穏やかな年でありますように・・・
     (1998年12月24日 クリスマスの相模原にて)

参考:
・マイナープラネット・センターのホームページ(接近天体のページ)
  http://cfa-www.harvard.edu/iau/lists/CloseApp.html
・惑星直列について
  吉川 真 「2000年5月20日惑星直列」 ニュートン1999年1月号
   http://pluto.mtk.nao.ac.jp/roido/cyoku.html
・ノストラダムスの生家の写真 「あすてろいど」19号 


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