編集室から

                              松島弘一


 いよいよ春、しかし4月に入っても寒暖の差が激しい日が続いています。編集室周辺も初夏のようになったかと思うと、雪がちらついたりしています。桜や桃のつぼみも大分膨らんできましたが、咲くのをちょっと躊躇しているかもしれません。しかし、まもなく桃や桜が次々と咲き、そしてあの燃え立つような新緑の季節を迎えることを考えると心が弾みます。というわけで「あすてろいど」第26号は些か気候変動と気分変動の影響を受けて、落ち着かないものになったかなと、気にしています。
 今月のイメージでは冥王星の問題が取り上げられています。冥王星を惑星かどうか議論する前に、惑星とは何かという問題を明確にすべきだ、という意見もあるようです。確かに現在のように太陽を回る天体の数と種類が増えてくると、太陽を独立に回る天体、というような従来の惑星のイメージでは対応できなくなってくるでしょう。直径や質量の大きさで区別する、という考え方もあります。その存在が他の太陽系天体の運動に影響力を持つような天体を少数選んで惑星と名付けようというわけです。経済的に影響力があると称する国が開いているG7のメンバーを決めるのに似てきます。惑星という言葉の起源を考えると、夜空での特異な動きを容易に確認できる程度の明るさはないと、などと考えますが。いずれにしても、大きさだけでなく、生成起源やいろいろな特性を含めた本格的な太陽系天体の分類がどう進むか、大変楽しみです。
 最近、小天体の本格的探索があちことで行われるようになり、発見される小惑星の数も大変な勢いで増えています。そこで「活発化するNEOの探索計画」と題する特集を作ってみました。南沢さんにまとめていただいた、現在動いている米国、欧州の探索計画は、主としてそれぞれのホームページの情報を基にしています。ただホームページのアップデートはそれほど頻繁に行われていないものもあり、現実と少し違っているかもしれません。お気付きの点はぜひご指摘頂きたいと思います。また2000年には日本もこの仲間入りをすることになります。本格的な観測活動に向けて、日本スペースガード協会も準備をしていく必要があります。そのため協会は特定非営利法人(NPO)としての認定を受ける準備を進めています。第二回総会に、これまでの会則に代えて「定款」案が提出され、承認されました。具体的には総会の議事録(21〜23頁)をご覧下さい。また地上望遠鏡とは別に、月面でNEO探索を行う計画の検討も行っています。そのまとめを行っている当協会運営委員の浅井さんに報告をして頂きました。
 宇宙開発が我々にもたらした大きな成果の一つは、地球を含めた太陽系天体に対する我々の認識を一変させたことにあると思います。かつては米国、旧ソ連の宇宙開発競争の中で、絢爛豪華さを競うような月や惑星探査が続きました。しかし、そのような時代も終わりました。今はごく限られた予算で行う小型宇宙ミッションの時代になっています。しかしそのような中にあっても、貧すれば鈍する、こともなく、次々と斬新なアイディアを生みだして、興味ある宇宙探査計画を進めている米国のバイタリティには、あらためて敬意を表したいところです。今回の矢野さんの「Houston, I have a problem」はその辺の米国の様子を大変興味深く紹介しています。今、何故サンプルリターンなのかということが、大変よくわかります。いろいろ使われている比喩も大変適切で、つくづく感心してしまいます。筆が冴え渡ってきたというところでしょうか。また次回が大変楽しみです。
 吉川さんは米国出張の帰りの飛行機の中で原稿を書いてくれました。あの華奢な外見に似合わず、いかにエネルギッシュであるかは、この旅行記を読むとよく分かります。今回は原稿は無理かもしれないということでしたが、無理にお願いして書いて頂きました。敬意を表して、編集室の手持ちの写真で飾ってみたのですが、いささか度が過ぎたという感もあります。申し訳ありません。
 紙面が無くなってしまいましたが、渡辺さんの「国友藤兵衛の望遠鏡」もいよいよまとめに入ってきました。この望遠鏡はなかなか奥が深く、再度の連載もあり得るかもしれません。
                (写真はネパール、キルティプルで。)


  26号の目次/あすてろいどHP