特集 活発化するNEO探索計画 |
現在活動している世界のNEO探索計画
南沢 弥生(サイエンスライター)
NEO(地球近傍小天体)のシステマティックな探索が米国を中心に充実してきました。2000年には日本もそこに加わることになります(あすてろいど No.99-01、PP2〜4)。そこで今どのようなNEO探索計画が動いているのか、ちょっと覗いてみようと思います。
NEOとは
NEO観測体制のサーベイをする前に、念のためにNEOについて確認をしておきたいと思います。(詳しくは日本スペースガード協会著 小惑星衝突 Newton
Press発行等を参照下さい。)
NEOは地球近傍天体と訳されますが、実際は小惑星と彗星から構成されることになります。もう少し厳密に区分するために、各天体の軌道の近日点q(太陽に最も接近する地点)、遠日点Q(太陽から最も遠い地点)、及び長半径aという三つのパラメータを用います。まずNEOはq<1.3AUとなる小惑星あるいは彗星のことを指します。火星のqが1.38ですから、NEOは確実に火星よりも太陽に接近することがあるわけです。これを火星軌道の内側に入り込む、と表現しています。現実にこのような軌道を持つ天体の大部分は、小惑星と呼ばれている天体です。このような小惑星をNEA(Near-Earth
Asteroid)とも呼んでいるため、ちょっとややこしいのですが、NEOの大部分はNEAであるとも言えるわけです。もう一つ最近使われる言葉にPHAというのがあります。これはPotentially
Hazardous Asteroid(災害をもたらす可能性のある小惑星)を短くしたものです。それではPHAとNEAとはどう違うのかと言いますと、NEAは近日点距離が地球軌道の太陽からの平均距離1AUに近いかそれより小さい(q<1.3)ということですが、これは必ずしも地球のそばを通ったり、衝突したりする可能性があるということを意味しません。もう一つ条件が必要です。それは地球と小惑星の軌道面が交わる点での軌道間の距離が極めて近いということです。二つの天体がたまたまこの地点で行き会ったとき、衝突やニアミスが起こります。この距離をKとしますと、K≦0.05AUの小惑星をPHAと呼んでいます。何故0.05AUなのかという理由は明確ではありませんが、軌道の誤差や摂動を考えると、すれ違う際に十分衝突が起こりうる近接距離とでも考えられると思います。
従って地球への衝突という観点からは、NEAのうちのPHAが要注意ということになるわけですが、こういう略語は似たものがあるので、大変ややこしくなっています。ちなみに1999年4月7日段階で、NEOが736、NEAが694、そしてPHAが166見つかっているということです。これから概算すると地球近傍小惑星NEAの約24%が地球への衝突可能性を秘めたPHAだ、ということになりそうです。またNEOからNEAの数を退いた42が彗星ということになりますが、この彗星の中には衝突の危険のあるものがどの程度含まれるのでしょうか。今のところは小惑星のように数百万kmを以下になるような彗星は見つかっていないようです。
NEOのシステマティックな探索
現在、光学望遠鏡を使った天文観測のほとんどは、写真ではなく、CCDイメージになっています。NEOの観測も例外ではありません。以前は、時間をおいて撮影した同じ星野の写真乾板から、その間に移動した星像を人間が見つけ出していました。しかし現在はそれを、CCDイメージを基にコンピュータが行っています。行っていることは原則的に同じことですが、はるかに精密な探索を、しかも極めて短時間に機械が代行しているわけです。
具体的には数分から数十分おきに同じ空の領域のCCDイメージを連続的に収録していきます。通常3枚か、それ以上のイメージを用い、コンピュータがイメージ間で移動している天体を見つけだします。この程度の時間間隔で、ある程度動いている天体は、NEOの可能性が十分あります。新しい天体が見つかると、イメージ間の星像の距離、移動方向、明るさなど、新しい天体の軌道や特性を決める情報がすぐに取り出されます。スターカタログや既知小惑星のエフェメリス等を基に、それが既知の天体であるかどうかも判断されます。
NASAは当面、「10年以内に直径1km以上のNEOを少なくとも90%以上見つける」、という目標のようです。これがそう簡単な話でないことは、前ページの磯部氏、矢野氏の記事をご覧になるとわかると思います。本当は地上の観測だけでなく、月面や軌道上から探索を行う、専用の宇宙望遠鏡が望まれます。JSGAでも現在美星町に建設している望遠鏡に加えて、検討中の月面望遠鏡(6ページ参照)の実現が切望されます。
実行されているNEOの探索計画
現在、次のようなプロジェクトが実行されています。その概要を各ホームページの情報からまとめてみました。。なお、以下の本文中に用いた写真はすべて各ホームページから転載しました。
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Spacewatch Project 1984年から活動を開始し、NEO探索の中心となってきました。「Spacewatch」はアリゾナ大学、月惑星研究所の、T.Gehrels及びR.S.McMillanを中心としたグループ名です。太陽系の衝突による進化のプロセスの解明と、そのための彗星及び小惑星の統計的研究がグループの主テーマになっていますが、小惑星衝突から地球を守ること、そのために必要なNEOのシステマティックなサーベイを行うことも重要な目標にしています。 写真上:左が0.9mのSpacewatch望遠鏡のドームs 写真下:1.8mのSpacewatch II望遠鏡 |
NEAT NASA JPL(ジェット推進研究所)の研究チーム(主担当者:E.F Helin)はCCDを用いたNEO及び彗星の観測システム、NEAT(Near-Earth Asteroid Tracking )を開発し、1995年12月から観測を始めています。NEATカメラはハワイ、Haleakala山頂上にある、口径1mの望遠鏡(GEODSS)に装備され、米空軍と共同で運用されています。 GEODSS(Ground-based Electro-Optical Deep Space Surveillance)は米空軍が人工衛星の光学観測のため各地に設置している広視野の望遠鏡です。 写真上:1m GEODSS望遠鏡 写真下:NEATカメラ |
LINEAR LINEAR(Lincoln Near-Earth Asteroid Reasearch)プロジェクトはMITのLincoln研究所が米空軍と共同で、口径1mのGEODSSを用いて行っているNEOの探索(主担当者:G.
Stokes)です。LINEARに用いているGEODSSはニューメキシコ、Socorroにあり、視野2平方度で22等までの観測が可能です。1997年10月から、2560×1960ピクセルのCCDディテクタが用いられるようになりました。これは望遠鏡の視野2平方度を完全にカバーしています。この大型フォーマットのCCDが本格的に運用に入った1998年3月には、LINEARシステムによって、1か月間に151000個の観測を行い、その中に13個のNEOが確認されています。 |
LONEOS LONEOS(Lowell Observatory Near-Earth Object Search、主担当者:E.Bowell)は、アリゾナ、フラグスタッフにある、口径0.6m、f/1.8のシュミット望遠鏡を用いた小惑星及び彗星の探索計画で、1993年に開始されました。CCDディテクタは2048×4096ピクセルで、望遠鏡の視野、1.6×3.2度をカバーしています。限界等級は約18.4等です。目標は500m〜1kmのNEOをできるだけ多く見つけることで、モデルを使った予測計算では10年間ののフル運用で、直径1km程度までのNEA及び木星族彗星の60%が見つかるということですが。 |
Catalina Sky Survey CSS(Catalina Sky Survey)はSteward天文台、Catalina観測所の42cmシュミット望遠鏡を用いたNEOの探索計画である。CCDディテクタは4096×4096ピクセル、これで望遠鏡の視野2.9×2.9度をカバーし、240秒の積分時間で20等までの検出が可能ということです。 |
ODAS ODAS(OCA-DLR Asterod Survey)はEUNEASOプロジェクトの中で行っている、NEOを中心とした小惑星及び彗星の探索で、1996年10月に開始されました。南フランスのコートだジュール天文台(OCA)とドイツ、ベルリンにある惑星探査研究所(DLR)が共同して始めたもので、ニースの北、CalernにあるOCAの90cmシュミット望遠鏡に2096×2096ピクセルのCCDディテクタを付け、約15夜/月のペースで観測を行っています。望遠鏡の視野は0.5×0.5度で、NEOの観測に用いないときは宇宙デブリの観測を行うということです。 |
26号の目次/あすてろいどHP