編集室から


 1999年最後の号をお送りいたします。本屋に何気なく山ずみされた来年2000年の日記帳や手帳を見ると、ノストラダムス大先生の大予言にもかかわらず、今年も何とか無事に終わることができそうだという気がしてきます。というわけで、多少の安堵感を持ってこの第28号をお送りできそうです。原稿を執筆いただいた方をはじめ、編集から出版に至る過程でご協力いただいた方々にお礼を申し上げる次第です。 岡山県美星町に建設しているNEO・スペースデブリ用天文台の正式名が決定しました。「スペースガードセンター」、いよいよその観測開始も間近になってきました。JSGAの法人化と相まって、会員の皆様のご協力に一層のご期待をする次第です。

 ところで28号のメインテーマはトリノスケールと皆既日食と言えそうです。NEO問題を扱うJSGAの機関誌がどうして日食をメインテーマにするのと、いささか訝るむきもおありかと思いますが、日食に限らず、自然現象の不思議さや驚異への純な感性こそ、NEO問題を客観的の捉える上で必須であると編集室では考えています。したがってこれからも天文・宇宙に関する広範な問題を取り上げていきたいと思っています。会員の皆様からの積極的な投稿をお待ちしています。

 地球に接近する天体についての観測が進むにつれて、将来地球に非常に接近したり、場合によっては衝突する可能性もある、というような天体が今後ますます多く見つかってくる可能性があります。従って、このような個々の天体について、地球衝突やそれによって発生すると予想される災害をできるだけ客観的に評価して、一般の人達へ不必要な不安感与えたりすることがないようにしようというのは、ごく当然なことと思います。トリノスケールも本来そのような意図に基づくものであり、衝突の危険についてのこのような確率を用いた評価基準はぜひ必要なものであることにも異論はありません。
 問題はNEOが発見されるたびに、危険度の評価を確率や数字で与えて発表していったとき、本来の意図とは逆に、一般の人達に混乱を起こす可能性も十分考えられるということです。これはNEOの探索を本格的に開始するJSGAにとっても極めて重要な問題です。PHA(潜在的に衝突によって災害をもたらすかも知れない小惑星)が発見されたとき、一般に発表する前に十分にその危険性を見極めてから、というのはこの仕事に携わる専門家として当然のことでしょう。問題はその見極めにかなり時間がかかること、多くの観測者や研究者の協力が必要になること、評価基準や判定について専門家のコンセンサスをとる必要があること、など難しい課題にどう対処していくかということになるかと思います。これは逆にPHAの問題を常にオープンに議論できるような環境を、どのように作り出していくかという問題と捉えるべきかも知れません。ぜひ会員の皆様からのご意見をお待ちしています。

 日食は太陽の研究など、科学観測の面から重要なものですが、一方、その自然現象としての魅力も多くの人々を惹き付けてやまないようです。今世紀最後の皆既日食、8月には日本からも多くの人がその神秘的美しさを求めて、欧州に出かけられました。しかし、なにせ天候にはあまり恵まれない地域のこと、出かけた場所によっては不運に涙した方も多かったようです。今回、トルコに出かけた吉村さんと、フランスに行かれた原さんに「日食観測記」を書いていただきました。吉村さんは幸運にも天候に恵まれ、すばらしい写真を撮られました。モノクロの印刷でをれを十分お伝えすることが出来ないのは残念ですが、これはホームページの方でお確かめください。
 一方、フランスに行かれた原さんは、不運というか、基本的には天候に恵まれなかったと言えると思います。しかし、何としても日食を見ようという熱意と、日頃磨いている?情報収集力と活動力をフルに発揮して、自分の力で幸運を掴んでしまったようです。その経緯を実に興味深くまとめていただきました。また皆既日食に沸く現地の様子が、大変良く伝わってきます。これは「あすてろいど」の原稿としての最長記録でもあります。しかし、どなたも一度読み出したら、思わず最後まで読んでしまうのではないでしょうか。
                   (松島 弘一、 写真は米国ミシガン州の紅葉)


  28号の目次/あすてろいどHP