「21世紀中に地球に接近する小惑星や彗星の衝突による脅威について、専門家と一般の人達が判断の共通の尺度にする。」 昨年、イタリア、トリノで開かれたNEOに関する国際会議で採択され、IAU(国際天文連合)が正式に承認した「トリノスケール」の目的です。トリノスケールについては前号の「あすてろいど」で祖父江、磯部両氏が解説されています。その際、トリノスケールの運用にJSGAの磯部理事長が批判的意見を述べられたが、それをきっかけにJSGA内で議論が活発に行われています。またこれについては、トリノ会議に出席していた専門家の間でもさまざまな議論があるようです。このトリノスケールの問題は、JSGAの今後の活動にとってもきわめて重要な課題であります。そこで会員の皆様がこの問題を考える上で参考にしていただくため、特集を組んでみました。
この特集は以下のような内容で構成されています。特集を読まれる前に、各章の概要を紹介しておきます。これを読まれると、この特集の意図もおわかりいただけるかと思います。
1.トリノスケールについてのIAUのプレスリリース
昨年、イタリア、トリノでのNEO問題に関する国際会議(あすてろいど99-03、16-17頁参照)の結果を受けて、国際天文連合(IAU)は、地球への天体衝突による脅威の尺度として、会議で採決された“トリノスケール”の運用を進めていくことを表明しました。
2.トリノスケールの概要
トリノスケールについては前号で解説されおり、重複することになりますが、前号での説明への補足と、特集を読まれるにあたって必要となる基本的事柄を整理してみました。トリノスケールは色分けしたダイアグラム(図)が基本になっています。従ってモノクロ印刷の「あすてろいど」で説明するのはまことに不適当ですが、この解説を読まれて、下に掲げたサイト等を参考にしていただければと思います。
トリノスケールは、あるNEOについて、災害という観点から、どの程度の関心を持つべきかを、定量的に見積もろうというものです。天体衝突の脅威というのは、本来、衝突時のエネルギー(とその結果もたらされる災害規模)、天体の衝突確率、および予想される天体衝突までの時間という、三つのパラメータで評価すべきであるというのが一般的考え方です。トリノスケールでは「21世紀に予想される」ということで時間のパラメータを除き、衝突エネルギーと衝突確率で評価した脅威のレベル(色分け)をさらに細分化して、1〜10の数値を宛てて一列に並べたもの、と考えられます。(トリノスケールは地震のスケールと対比されがちですが、このように実体は似て非なるものです。)
現在、大きな議論となっているのは、この時間のスケール、すなわち五年先に予想される衝突と、五十年先のそれとが持つ脅威のレベルの違いを、どのように考えるかというところにあるようです。
3.トリノスケールの修正案
MPC(国際小惑星センター)のBrian Marsdenによる、トリノスケールへの意見と修正案を取り上げました。上述した時間スケールをどう取り込むかが主題です。主な修正個所はダイアグラム上のレベルの配列、および現在から予想衝突時までの時間間隔というパラメータを付加して、それを色の濃淡で表そうというものです。情報をより正確に伝えようとすると、標記が複雑、かつ難しくなる。また別の批判も出てきそうですが。
4.トリノスケールの決定過程
スケールそのものの議論と別に、6月の国際会議における採択のプロセスでも問題があったようです。日本からただ1人参加されていた磯部理事長に、その経験を報告していただきました。
5.トリノスケール批判に対するIAUの見解
トリノスケールを採択、運用に入ることを決めましたが、現在のスケールに固執しようというものではなく、今後の検討や研究の成果に柔軟に対応していく考えのようです。
6.トリノスケールに関するJSGAでの議論
これまでにJSGAのメールを通して行われた議論を収録しました。この問題はJSGAにとっても、常に考えていく必要があります。皆様からのご意見をお待ちしています。
7. JSGA会員の議論を受けて磯部理事長の再論
NEO観測データや研究結果の公表と、トリノスケールでの公表の違いを再度説明した。基本的には前述した時間スケールの欠落をどう埋めていくか、ということが課題。何十年も先の衝突公表には、ある程度軌道精度を高める猶予期間をとってもいいのではないか。
=========== この特集で参考にしたサイト ===========
http://explorezone.com/archives/
http://impact.arc.nasa.gov/torino/index.html
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