特集 トリノ(Torino)スケール(3)

        トリノスケールの問題点と修正

                    −Brain Marsden(MPC所長)の見解


 予測されるNEOの衝突に関連する情報を一般に伝達するために、トリノスケールのようなものを使うということ自体に反対はしない。Turin(トリノ)の会議でも、私は、Binzelが1995年に提出してリジェクトされたものより今回の提案は改良されていると述べている。このスケールの最も重要な特徴はレベル1,あるいは緑の危険部分の決め方にある。そこでの衝突確率は、未発見天体の“バックグラウンド”数、あるいは少なくとも現在未発見の天体のそれと同等なものになっている。さらに、より小さな衝突確率についてレベル0(白の危険分)、そして確率がそれより100倍程度大きなものはレベル2(黄色の危険部分)としているが、これらも非常に適切といえる。

 私が問題にするのは、赤い危険部分であるレベル10までの、高いレベルへの数字の配分である。この細かい分け方は不必要であり、一般に混乱を招きかねない。結局、我々は実際に天体の直径を知らないわけだし(些か問題のある光度の観測と仮定したアルベドをもとに推定するか、天体表面の太陽光の反射から推定をしているに過ぎない)、衝突確率にしても、いつも、考えられるほどよく決まるわけではない。“赤の警告”レベル8が、何も起こらないレベル0とサイズを変更することなく隣接しているというのは、まったく納得いかないし、図上でのレベル2、4,5,6あるいは7の曖昧さが、他の何人かによって指摘されていた。

 もし数字を完全に捨てて、色だけを使うことにすれば、このスケールは確かにより満足のいくものになるだろう。大きな衝突天体については、黄色と赤の間に“オレンジの警告”に対応するレベルがある。白‐緑‐黄‐オレンジ‐赤と並ぶところはいいが、図のすべての部分がこの配列になるように、確率‐サイズの関係を調整してはどうだろうか。白と赤の境界線という奇妙なものをはじめ、黄色と赤、白と黄色の境界もなくすのである。

 数字の代わりに色を使うことで、Richterスケールに比較されることもなくなる。Binzelをはじめ多くの人は類似性を強調しているが、遠い将来にわたる衝突の不確定な予測を含むスケールを、過去の地震について明確に決められたRichter数と比較したところで、何の意味もない。衝突確率は新しい観測データが得られるにしたがって変化していくものであり、これらの変化は、数字よりも色を使うことで、精密さには欠けるが、より的確に伝達できるように思える。

 これまでに、次の半世紀内に衝突の可能性があるとして騒がれた四つの天体があったが、(このスケールでは)そのうちの二つは白の警告より上にでることはなく、一つは白から緑、そして2040年の1997XF11の場合だけ黄色の部分に入ることになる。そして将来の観測の可能性から、四つのうち三つは白の領域(基本的に衝突の可能性がゼロ)に落ち、白の部分にある一つだけが、観測データが得られないという理由で、衝突の確率がゼロでない白の部分に留まることになる。もし1997XF11の軌道が地球に対して、例えば20000マイルシフトしていたら、2028年のこの天体はオレンジの警告にある、というのは、恐らく一般に受け入れられないだろう。Binzelの標記にしたがえば、レベル7に近いレベル6ということになる。それは“全地球的カタストロフィーを巻き起こす可能性のある重大な脅威”と彼が考えたレベルになる。

 それは、従って警告を出す根拠となるであろうか。もちろんそんなことはない。すぐ次の日、1990年の観測データが見つかり、次の1000年間、衝突確率をゼロに急落させてしまうこともあり得るわけで、現実にそうなったのである。オレンジ警告に達するものの現実の結果は、黄色、緑、あるいは白に留まっているものと何ら変わらなかったのである。このようなことは起こり得ることで、“重大な脅威”というスケールの説明に驚かされてはいけないということを、一般の人々は再確認すべきである。

 ほとんどの場合、ある時点で、データの蓄積が危険を取り除いてしまうものである。さらに観測データが得られるまで心配という場合もあるかも知れないが、実際にはあまり気にすることはない。とは言っても、観測は脅威が完全に消え去るまで、極めて重要である。このような意味で、小さな天体は大きなものよりやっかいだと言えるかもしれない。なぜなら、小さな天体になるほど、過去の観測記録に残っていることはまれで、また起こりうる衝突の前に、さらに観測をする機会をもてるかどうかもあやしいからである。もちろん、それでももし実際に衝突することになっていれば、衝突確率は最終的に100%になるわけである。

 そのことが私に最後のポイント、すなわちスケールはさらに他のパラメータを導入する必要がある、ということを提起させるのである。それは、現在と、起こりうる衝突現象との間で経過する時間の大きさというべきものである。その導入で、問題にしている衝突事象が30年内に起こるのか、3日以内か、それともその間のいずれかかで、話が大きく違ってくる。前から言っているように、一般の人は、数十年のリードタイムがあるのに、煽られる必要もないのである。時間の殆どはそのようなもので、この間は天文学者が観測をするときである。

 それでは、このことを、スケールにどのように導入できるだろうか。明瞭な方法は、色に影、または強さをつけることである。もしリードタイムが1年以下なら、例えば、色は暗くする。1年より大きい場合は明るい色にする。非常に暗い色は10分の1(37日)以下の場合に、また非常に明るい色は10年以上の場合に用いる。もし必要なら、このスキームを拡張して、0.01年(4日)以下に極めて暗い色、100年以上には極めて明るい色を配してもよい。このようにすると、1997XF11は“非常に明るい黄”、1999AN10は“非常に明るい緑”‐白に移る前‐に置かれる。1999AN10については、100年程度先に危険な天体になるという可能性が、ほんの少しであるが、まだ存在する。しかし、現段階では“極端に明るい緑”でも、“極端に明るい黄”でもかまわない。もちろん心配するのは、差し迫った高い確率の衝突現象、すなわち“極めて暗い赤”、あるいは“極めて暗いオレンジ”に当たるものは見つけなければならないことである。このようなことはまだ起きていない。そしていつまでのそうあって欲しい。
      Brian G. Marsden
      Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics 
      November 7, 1999
             (あすてろいど編集室 訳)
[註]配信者 B. J. Peiser のコメント
 Brian Marsdenは、これまでのトリノスケールについての懐疑主義を、現実的で説得力のある改修の提案に変更したこで、称賛されてしかるべきである。彼の提案は、トリノスケールが、どのようにすれはより論理的、かつより有用なものになるか、ということを議論していく上で、基礎になるように思える。Richard Binzel と Brian Marsden が、トリノスケールを改良する上で協力することに同意し、ここに提案された改善の幾つかが、強化されたバージョンに実際に取り入れられることを望む。


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