特集 トリノ(Torino)スケール(5)

         「 TORINO スケール」とIAU

                −IAUの見解−

                           CCNet  From: Benny J Peiser, b.j.peiser@livjm.ac.uk


 いわゆる“トリノスケール”の性格、目的、そしてIAUによる採択が、CCNet上での最近の議論の主題になっているようである。よく意味のわからない文献に見られる誤解をすべて修正するわけにはいかないが、この辺で説明しておくべきと思われる。

 われわれの観点では、一般およびメディアに対処する上で、トリノスケールは次の二つの理由から、有用な概念と考えている。第一に、異なる大きさの衝突に伴って予想される広範囲の結果をそれぞれ明確にしていることで、すべてが非常に小さい確率であるとしても、これらの結果は同様に異なるはずである。第二に、現在わかっているNEOが近い将来、地球に何か予測されるような危険を与えることがないということを、即座に明確にしていることである。

 というわけで、“災害を与える可能性のある小惑星”(PHAs)の概念を大きく改善しるものであり、軌道精度はまだ高精度に決められないが、接近しているものが、危険な天体の可能性がある、というような場合に有効となる。現在わかっている限りでは、すべてのPHAs(従来そう呼ばれていたもの)は完全に無害であり、そのような頭字語(例えばPHAsというようなもの)は一般に誤解を与えてしまう。

 準科学的な意味合いで言っても、トリノスケールは、IAUのレビューによって決められた値が、明らかに無害とはいえないNEOのどの発見にも適用できるということが一般に伝わるという面からも有用である。実際、エキスパートがどのようにして真実を決めるかということは、そのエキスパートにとって気にかかることである。レビュー機構とスケールは、一つのパッケージとして、国際的コミュニティによるNEO発見について、科学的および政治的観点の両面に専門的に対処する上でも役に立つ。このことはIAUにとって栄誉であり、またIAUがこの問題について責任を持って対応していることとを知ることは、一般の人にとっても意味のあることである。

 純粋に科学的観点からすると、すべての知られている天体をカテゴリ0に置くという分類スキームが、明らかな前進というわけではない。学問的前進を図るためには、言うまでもなく、現在手に入るようになっている各種の有効な軌道データに基づいて、トリノスケールの改良や、より洗練されたスキームを求めていくべきである。これはIAUのNEOコミュニティにとっても、歓迎すべきことである。今回のIAUのスケール採択について、その最初の具体化にあたってのすべての技術的観点を正当化したものであるとか、あるいはNEOの科学的研究における鉄則とする、などと解釈することは、第一に正しい方向ではなく、第二に科学の現場−すなわちIAU本来のテリトリで過ちをおかすことになる。
           (あすてろいど編集室 訳)
Johannes Andersen
General Secretary, IAU

Hans Rickman
Assistant General Secretary, IAU


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