2001年に「流星嵐」が出現?
−デイビッド・アッシャーらのしし座流星群の予測が的中した−
吉川 真(宇宙科学研究所)
いよいよ西暦2000年になりました。暦のうえでは,まだ20世紀最後の年ということで,相変わらず「世紀末」なのですが,2000年ということで,気分的には新しい時代の幕開けですね。是非,何か夢のある新しいことが始まってほしいものです。 さて,このような新しい時代に向けて,小さなことかもしれませんが,1999年末に1つの進歩がありました。それは,流星群の予測に初めて成功したということです。予測をしたのは,イギリス人の天文学者であるデイビット・アッシャー氏とロバート・マックノート氏です。彼らは,1999年11月に見られた「しし座流星群」の出現時刻を正確に予想することに成功しました。(アッシャー氏は日本にも滞在していたことがあり,日本スペースガード協会の講演会でも話をしていただいたことがあります。その講演内容については,「あすてろいど」22号に掲載されています。) 流星(ながれ星)というものは,砂粒くらいの小さな粒子が地球に飛び込んできて発光する現象です。散発的な流星は毎日のように見られますが,時々,地球が流星粒子の流れを横切るようなことが起こります。その時には多数の流星が流れるので,流星群と呼ばれています。流星群には,毎年,同じ時期に必ず出現するものと,何年かごとに出現するものがあります。しし座流星群の場合は,33年ごとに大出現するものです。(しし座流星群 流星粒子の流れを地球が横切る時期は分かっていますから,いつ頃流星群が見られるかは大体は分かります。しかし,流星粒子の流れが正確には分かっていないので,流星群の出現を予想することは難しいことでした。実際,過去に大出現が予想されたのに全く出なかったこともありました。例えば,「流星と流星群」(長沢工 著,地人書館)には,1972年のジャコビニ流星群について大出現が予想されたのにほとんど出現しなかったことが紹介されています。また,1998年のしし座流星群の場合には,予想されていた時刻の16時間ほど前に,より沢山の明るい流星が流れたということもありました。 ということで,流星群の出現を正確に予測することは不可能であるということが,暗黙のうちに常識的に思われるようになっていました。また,事前に騒ぎすぎると流星が出ないとも言われています。(半分,冗談ですが。) ところが,1999年11月のしし座流星群の前に,アッシャー氏らが,非常に厳密な予測を公表したのです。それは,1999年のしし座流星群のピークは,11月18日の午前2時8分(世界時:日本時間では午前11時8分)であるというものでした。これは,それまでの常識を全く破ったものです。というのも,そもそも流星群が出現するかどうかすらはっきりとは予測できないのに,出現時刻を特定することなど全く不可能だと思われていたからです。 この予想について,当初,多くの人はあまり受け入れてはいなかったと思います。私も半信半疑でした。私自身は,アッシャー氏と10年ほどつき合いがあります。非常に物静かで冷静沈着なタイプの研究者で,人騒がせなことを発表するようなことはまずありません。ということで,彼らの予想は根拠のないものではないということは分かっていたのですが,それでも完全に信じることはできませんでした。ただ,非常に気にはなりましたので,1999年9月に宇宙研で開かれたしし座流星群についての研究会では,アッシャーらの予想を紹介しました。もし,アッシャー氏のことを全然知らなければ,最初から全く気にもとめなかったことでしょう。 それにしても,やはりアッシャー氏らの予想が気にかかりましたので,彼らの予想がどのくらい本当なのか,直接アッシャー氏に聞いてみました。すると,その答えが,"I am very confident ・・・"という書き出しで始まっていて,彼らが本当に確信を持って予想していることが分かりました。 このような状況で,11月18日を迎えたわけです。非常に残念ながら,アッシャー氏らの予想時刻である午前2時8分(世界時)というのは,日本時間では午前11時8分となってしまって,昼間です。したがって,日本では,電波などによる観測を除いては,流星が見られませんでした。しかし,時間が過ぎるにつれて次々と情報が入ってきます。そうすると,どうもピークの時間がアッシャー氏の予測に近いようです。そして,日本時間で11月19日未明に流れてきた情報によると,ピークの時刻がアッシャー氏らの予測と5分と違わなかったということでした。それを伝えたニュースには,"British astronomers make history"(イギリスの天文学者が歴史を作る)というタイトルが付けられていました。 さて,その後に1999年のしし座流星群についてデータの集約が行われましたが,やはり出現のピークの時刻はアッシャー氏らの予測と数分程度の誤差で一致したということです。これほど正確に流星群の出現予測が的中したことは,初めてです。これで,アッシャー氏らの予測が俄然注目されることになったのです。 ちなみに,出現する個数についてもアッシャー氏らは予測していました。その数は,1時間流れる流星の個数に換算した場合,500個とか1500個という予想でした。実際には,ピーク時には1時間あたりに換算すると,5000個ほどにもなる数が流れたそうです。これは,「流星雨」と言えるでしょう。まさに雨のように流星が降ったわけです。そのような状況が見られたのはヨーロッパ方面だったので,残念ながら日本では見られませんでした。しかし,日本人でもこの流星雨を見ることができた幸運な人が何人かいます。その1人は,この「あすてろいど」にもいろいろな記事を書かれている矢野創さん(宇宙科学研究所)で,矢野さんはNASAの飛行機に乗って,ヨーロッパでしし座流星群の観測をされてきました。そのうち,矢野さんから面白い報告が聞けることと思います。 このように流星の出現数については,デイビッドらの予想はちょっとはずれて,より沢山出現したことになります。出現の数の予測は,時刻の予測よりもさらに難しいものです。 以上のようにアッシャー氏らの予測が見事的中したわけですが,そうしますと,これからのしし座流星群の予測が気になります。アッシャー氏らの予測の一覧を別表に示します。彼らの予測によりますと,本当のしし座流星群のピークは,2001年と2002年になるということです。特に,2001年の11月18日(日本時間では11月19日未明)には,1999年のしし座流星群よりもさらに多数の流星が流れ,日本を含むアジア地域が観測の適地ということです。 この文章を書くにあたって,アッシャー氏からつぎのようなメッセージをいただきました。 'The best is yet to come [i.e. rates should be even higher 「(しし座流星群が)最高になるのは,まだこれからです。つまり,流れる流星の数は1999年の時よりもずっと多くなります。そして,2001年は,しし座流星群を見るために日本が世界のどこよりもいい場所となるでしょう。」(デイビッド・アッシャー,1999.12.10) まだちょっと先のことですが,是非,楽しみして待つことにしましょう。もしかすると,「流星雨」どころか「流星嵐」を体験できるのかもしれません。 (1999.12.19,横浜市青葉区にて) ----------------------------------------------- ◆表:しし座流星群の出現予測
注意: ・時刻を日本時間にするためには,世界時に9時間を加える。 ・ZHRとは,Zenithal Hourly Rateの略で,1時間あたりに流れる流星の個数を標準化したものである。 ・http://www.arm.ac.uk/leonid/last1999.htmlより引用 |
◆参考:アッシャー氏らの研究についての補足 ・1998年のしし座流星群のときには,予想されていたピークの時刻よりも16時間ほど前に多数の明るい流星が流れたが,これは,アッシャー氏の理論によると木星と共鳴状態にあった流星粒子が地球に衝突した可能性が高いという。(この場合の共鳴状態というのは,木星の公転周期と流星の公転周期の比が5:14になっている状況を指す。) |
29号の目次/あすてろいどHP