今月のイメージ
「小惑星の発見は例えば子供の出産のようなもので、それに対して軌道と推算表との計算は養育の様なものである。それであるから天文学者の間に、小惑星の発見をある程度に制限しようという意見さえ出たほどであった。所が1898年に至って、異常の小惑星エロスが突然発見されて、其様な考えが一つの笑話となって了った。エロスの発見は確かに小惑星発見の歴史の上に一時期を画したものである。」 現在のようなコンピュータなどもちろんあるわけでなく、多様なレベルの観測データをもとにした推算表の管理や発見報告に対応する同定作業など、当時にあっては、大変なものであったと想像される。登録番号が付いたものだけでも400を超え、この勢いで発見が続いたらどうなるか。しかし、近日点が火星軌道の内側に入り込んでいる天体の発見は、小惑星は火星と木星の間にあるという説明を無効にしてしまったわけである。 それから約100年、NASAの探査機「NEAR Shoemaker」がこのエロスを周回しながら、さまざまな観測データを地球に送り続けている。1996年2月、Delta-2というロケットで打上げられた重さ、約800kgの探査機には、磁力計(エロスに磁場の存在を探る)、X線/ガンマ線スペクトロメータ(化学成分の検出)、近赤外スペクトロメータ(太陽光の反射スペクトルから表面の鉱物組成を検出)、マルチスペクトルイメージャ(形状、地形、色などの検出)、レーザレンジファインダ(メートルオーダーの精密な形状を検出)といった観測器が搭載されている。 小型、軽量、低コストという要請のもとで作られたこれらの観測器は必ずしも十分に強力というわけではないが、熱意があればお天道様は見捨てないのである。例えば3月2日に起こった大きな太陽爆発は、エロスから200kmの距離にあった探査機からの蛍光X線測定を可能にしてくれたのである(設計では50kmからの測定を想定)。その結果、エロスにマグネシウム、鉄、シリコン、それにおそらくアルミニウム、カルシウム等の存在が認められたのである。 NEARミッションの特筆すべき特徴の一つに、ホームページ(http://near.jhuapl.edu/)の充実がある。ミッションの内容とその背景となっているさまざまな科学的知識、現在の状況、どんな観測がされているか、といった情報を大変きめ細かに、かつ迅速に公開している。特に「NEAR image of the day」として解説付きで掲載される処理済の観測画像は、実に楽しく、また解説も親切で分かり易く、惑星探査を勉強しようという学生にとっても、また小惑星に関心のある一般の人にとっても必見である。現在は、非常に精密な画像が次々と出てきて大変興味深いが、昨年末から2月にかけてのエロスへのアプローチフェーズの様子は特に圧巻であった。まるでこのプロジェクトに参加しているような臨場感を持たしてくれた。情報化時代を迎えて、これからの宇宙プロジェクト実行の、一つの見本を提供してくれたようである。 地上のNEO観測プロジェクトもこのような情報公開をしながら、進められたら理想的である。イメージは観測に適した?荒涼たる地にそびえる望遠鏡のドーム。危険天体は一つたりとも見逃さない、という鋭い鷹の目。地上のNEO観測の理想?を象徴したものである。しかし、それだけでは何か寂しい。天体へのロマンと余裕は残しておきたい。観測結果を大いにエンジョイしながら探索を進めて行きたいものである。ところで、最近NEOの推定数について、二つの説が発表された。D.
Rabinowitz, E. Helin等による最近の推定では、直径が1km以上のNEOの存在数は1000、一方、A.W.
Harrisによると1000または1500ということで、従来想定されていた2000からは大分少なくなる。もしそうだとすると、すでに500程度は見つかっているから、現在の世界の観測網でも、この鷹の目のような鋭い観測をすると、残りの大半を検出するのに、それほど時間を要しないかも知れない。あと15年か20年でサーベイは完了、当分危険な天体はなさそうなのでスペースガードプロジェクトは中止、というのも残念である。やはり100年前のエロス発見のように、とんでもない天体が発見されて、次の段階に発展することを祈ることにしよう。 |
30号の目次/あすてろいどHP