世界第3位の隕石が名古屋に
       
−名古屋市科学館「宇宙展2000」より−

                           吉川 真(宇宙科学研究所)


 

 最近、筑波に落ちた隕石が多くの人によって目撃されたり(1996年1月)、神戸の民家の屋根を突き破った隕石について報道がなされたり(1999年9月)して、隕石というものが、ちょっと身近なものとなりました。しかし、多くの人にとっては、隕石は本やニュー
スで読んだり聞いたりする程度で、実物を見たり触ったりしたことはないのではないでしょうか。もし、是非隕石に触れてみたいという方がいらしゃれば、今がチャンスです。名古屋市科学館で、本物の隕石に触ることができます。それも、世界で3番目に大きい隕石に触れることができるのです。

 名古屋市科学館では、中日新聞社・中部日本放送との共同主催で、2000年3月18日から5月14日まで、「宇宙展2000」という特別展が開催されています。この特別展では、宇宙に関する様々なものが展示されていますが、その「目玉」は何と言っても世界最大級の隕石である「新彊(しんきょう)隕石」でしょう。その重さはなんと28トン。はるばる中国の新彊ウイグル自治区の都市ウルムチから運ばれてきました。

 よく話題なるような小さな隕石ならその数は非常に多いですが、重さが何トンもあるような大きな隕石となると、数えるほどしかありません。確認されているものの中で世界で最も重い隕石は、アフリカのナミビアにある「ホバ隕石」です。これは重さが60トンほどあると言われています。重すぎるために動かすことができないので、落下場所で展示されているということです。世界で2番目に重い隕石は「アーニートゥ隕石」で、重さは30.9トンあります。これは、1894年にグリーンランドで発見されたものですが、現在はアメリカのニューヨークに保管されているということです。そして、名古屋市科学館に来ている「新彊隕石(学術名:Armanty隕石)」が、世界で3番目に重い隕石なのです。

 この新彊隕石は、発見されたのは1898年のことで、ロシアの探検隊によってロシア領内で発見されたということです。しかし、その後その場所が特定できなくなったということですが、中国のローランの洞窟の調査隊が偶然この隕石を発見して、戦車2台、兵士1万人を使って1965年に中国側に運んだそうです。ただし、この隕石がいつ落下したのかは分かっていません。

 私も名古屋市科学館でこの新彊隕石を見せていただきました。重すぎるので、科学館内には運び込むことができないということで、科学館のすぐ外に仮設の建物が作られてそこに隕石が置かれていました。最初に見たときの印象は、やはり「大きなあ!」というもの
でした。大きさは2.42×1.85×1.37(m)ということですから、大きな石の塊といったものです。山などにある大きな岩などから見れば小さいのですが、隕石としては本当に大きいものです。

 自由に触って構わないというので、さっそく触ってみました。その日はあいにくの雨で湿度が高かったせいもあるのでしょうが、隕石の表面はひやっとしていて、湿っていました。この塊が、はるばる宇宙空間を飛行して地球までたどり着いたのです。よくよく考え
てみると不思議なものです。

 隕石から手を離して手のにおいを嗅いでみると、錆の臭いがしました。これは、この隕石の主成分が鉄であるからです。このような隕石を「鉄隕石」と呼びます。成分が鉄であるために、その重さが28トンもあるのです。隕石の表面は、溶けて固まったかのように滑らかですが、一部分はごつごつした内部がむき出しになっています。落下したときに、表面の一部がはがれたのでしょう。

 アメリカのアポロ宇宙船が月から持ち帰った石と同様に、隕石は人類が手にできる地球以外の石です。また、隕石は、たかが「石ころ」ではありますが、この「石ころ」が沢山集まることによってできたのが私たちの地球であり、太陽系の惑星などの天体なのです。
その意味では、隕石は地球誕生の謎を解く鍵ともなりうるものです。

 ちなみに、この新彊隕石の別名は「シルクロードの銀牛」というそうです。それは、屋外で太陽の光を浴びると銀色に輝いている牛のように見えるからということです。残念ならが名古屋での展示は屋内になってしまい「銀牛」は見られないかもしれませんが、何も
言わずにどっしりと座っている宇宙の石に思いを馳せてみませんか?
(2000.3.20:春分の日にて)

※「宇宙展2000」についての詳しい情報:
   名古屋市科学館(電話:052-201-4486)
   http://www.ncsm.city.nagoya.jp/2000/
    (特別展は、2000年5月14日までです。)

※謝辞:
特別展の準備で非常にお忙しい中お時間をさいていただきました名古屋市科学館の毛利さん、鈴木さん、野田さんに感謝いたします。(私が名古屋市科学館にお伺いしましたのは、特別展の開催される2日前でした。)なお、この文章を書くにあたりましては、名古屋市科学館から提供していただきました資料および中日新聞の記事(2/26、2/29)を参考にさせていただきました。


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