グローバル・ロボティック・テレスコープ プロジェクト
−天体観測を教室に−
吉川 真(宇宙科学研究所)
今年の連休明けの5月8日から2日間、マレーシアのクアラルンプールで「グローバル・ロボティック・テレスコープ」プロジェクトという会合がありました。グローバル・ロボティック・テレスコープとは一体何なのかと思われる方も多いかと思いますが、会合の中身を正確に言えば、「ネットワークを用いた天体観測や天体画像データ利用の、教育への積極的な活用について」というようなものになります。この会合に、日本スペースガード協会の磯部会長と美星スペースガードセンターで観測をしておられます浦田さん、そして私の3人が出席してきました。この他、日本からはブリティッシュ・カウンシルと読売新聞の方々が参加されていました。 ネットワークを利用して遠隔地から望遠鏡を操作して観測を行うということは、すでにいろいろな試みがなされています。技術的にも、それほど難しいことではありません。また、もちろんネットワークを使って天体画像データにアクセスすることも、今では全く珍しいことではありません。 もともとは、日本スペースガード協会の磯部会長とイギリス・リバプールのジョン・モア大学のマイク・シムコ氏を中心とするグループがこのような構想を協力しながら推進していこうと議論を始めたものでした。その話に、イギリスのブリティッシュ・カウンシルが興味を示してきて、より多くの国に声をかけてみようということになり、今回は主に東アジア周辺の9カ国がマレーシアに集まって最初の会合が開かれたと、いうわけです。9カ国というのは、日本とイギリスに加えて、オーストラリア、インド、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾です。各国とも状況はそれぞれ異なりますが、天文データを教育に利用することで子供達の理科教育をよりよいものにしたいという思いは同じです。 日本では、美星スペースガードセンターが本格的な観測を始めると、膨大な量の天体写真が撮影されることになります。この写真から地球に接近する天体やスペースデブリが検出されることになりますが、使い終わった画像をそのまま捨ててしまうのは非常にもったいないことです。そこで、このデータの利用の1つとして、教育の現場での活用が考えられました。 一方、イギリスでは、カナリー諸島に遠隔操作の望遠鏡を設置する計画を進めており、今年中にはその望遠鏡が稼動し始める予定です。この望遠鏡の目的は天文学の研究用ですが、その観測時間の一部を教育目的に使うことを考えています。つまり、学校などから観測を要求することができるわけです。こちらは、遠隔操作や自動的な観測ができる望遠鏡で、会合名の「ロボティック・テレスコープ」とはここからきています。
このように、日本とイギリスとでは、やり方は異なりますが、それぞれ、「既製品」ではない生のデータを教育の現場に提供できるわけです。問題となるのは、そのデータを教育の現場でうまく利用してもらえるようなシステム作りです。ここでシステムとは、どのようにして観測要求の受付や観測データの配信をするのかというところから、教育現場で使えるデータ処理用のソフトウエアの開発、そして、解析したデータをプロの天文学者がチェックする、というところまで多岐にわたっています。 マレーシアでの会合では、技術的なことから教育がどうあるべきかということまで、熱心な討議がなされました。今のところ、データを提供できるのは日本とイギリスだけですが、参加した他の国も、単にデータをもらうだけでなく、チャンスがあれば是非データを提供できるようにもなりたいという熱意を持っています。もし、各国に教育に使える望遠鏡があってそれがネットワークで結びついて世界中からアクセスできるということになれば、それは非常にすばらしいことだと思います。同様の会議が、今度はヨーロッパで行われる予定です。このような試みの輪が世界中に広がっていくことを期待しています。
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31号の目次/あすてろいどHP