美星スペースガードセンターからの報告
特異小惑星2000UV13の発見と軌道について

橋本 就安、浦田 武(美星スペースガードセンター)

 美星スペースガードセンター(BSGC)では地球に近づく天体(NEO)の捜索と宇宙開発事業団から依頼の地球周囲を回る人工天体を主に4人の観測者が口径25センチの望遠鏡を使って2人交代で試験観測を行っている。


 10月21日夜は夕方から厚い雲に、はばまれて観測できなかった。夜半を過ぎて22日午前2時20分にようやく晴れてきた。最初は静止衛星の観測を行い、次いで既に発見した小惑星の追跡と地球に近づく天体の捜索である。捜索は最初のうち南の空に望遠鏡を向けて観測した。撮影した一部の撮影画像は、別の画像撮影中にブリンク(2〜3枚の画像をコンピュータモニターに順番に表示させること)して移動天体を探すのである。そして、新発見と思われる通常の小惑星を1個。その後、今回大発見につながった画像は北方向にある、おおぐま座の前足付近に望遠鏡を向けて午前5時18分と5時24分に4分間露出で2枚撮ったのだが、薄明が近づいていたので3枚目の画像は露出を3分間と短くして午前5時29分に撮影した。これがやはりタイムリミットで空が明るくなってきた。その日はそれが最後で、作業を終了した。


 次の日の夜になって天候が悪かったので、昨晩撮った画像のチェックを始めた。そして、おおぐま座を撮った画像をチェックしていて画像の下端近くに光度約17等級の移動する天体を見つけた。なんと視野の端ギリギリのところに写っていたのだ。写した3枚すべてに写っており、間違いなく小惑星のイメージと判断して位置測定を実施してBSGCのパーソナル番号をA00172とすることになった。そして、すぐに暫定軌道を計算して、次の予報位置を計算した。撮影した場所は黄道から離れたところであるため通常の小惑星は存在しない。もしも、小惑星があればそれは特異な小惑星だ。今夜、確認観測をしたいが曇っている。結局10月23日午前4時15分には雨が降り始めて観測できず。


 23日は夕方から雨、天候の回復を待った。今晩もダメかもしれないと思っていたら、夜遅くに秦野市に帰った浅見さんから晴れてきたので、観測してくれるという。また、洲本市の中野主一さんも埼玉県上尾市の門田さんに連絡して手をまわしてくれた。その後、浅見さんからは連絡があって、撮影したが予報位置には見当たらないというのだ。浅見さんの撮影視野が0.3度しかないとのことであるが、不安がよぎった。ゴミだったのか?もう一度22日早朝に撮った画像を表示させて確認した。ゴミではなく、間違いなくあると思うのだが・・・?


 その頃(10月24日午前4時)から美星町の空が晴れ始めた。そして、連続的に午前4時8分から4分間露出で予報位置を中心に撮影を始めた。早速、最初の方で撮影した3枚の画像をブリンクしてみる。息を呑む瞬間だ。そして、予報位置より少しずれた所に再発見した。一日の移動量は約0.7度(予報は約0.6度)であった。やはり本物であったかと、ここでやっと安心できたのだ。しかし、午前5時過ぎには濃霧のため全く観測できなくなってしまった。なぜか、奇跡的に約1時間晴れてくれたため10枚撮影できた。位置測定後すぐに中野主一さんに報告した。そして、マイナープラネットセンターのNEOのホームページに掲載され世界各地の天文台が追跡を開始した。視野の端で発見したところから、浦田さん曰く『正にNear Edge Object(NEO)だね』と。


 発見から一週間後、観測が集まるにしたがい軌道は円軌道に近くなり(離心率は0.6)地球軌道よりも内側に入り込むことが分かった。つまり、地球軌道を横切る軌道であり、大きさも今から約6500万年前に地球に衝突して恐竜などが絶滅したと考えられている天体と同程度の大きさと推定されることが分かった。これは地球軌道の内側に入り込んで既に発見されている小惑星の中では2番目の大きさである。なお、2000UV13という小惑星の仮符号が付いた。そして、今のところ地球との衝突の心配は無いようだ。
 今回の発見でいろいろな方の協力がありました。誌面を借りてお礼申し上げます。   (橋本)

図の説明 : 日本時間10月31日早朝、 午前3時36分1秒から3時57分43秒までの 21分42秒間の4フレームの合成画像です。


 軌道計算の結果の第一報は公転周期17.6年の彗星のような長円軌道、翌日の10月24日に入った計算結果では周期2.6年の軌道だった!!このように発見直後の頃は、観測期間と観測数が少ないこともあって正しい解を得るのが非常に難しく、計算をするたびに軌道の形が違う答えとなって、そのたびに一喜一憂ハラハラ・ドキドキの2000UV13(以下 UV13)だった

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 あの騒ぎから約6週間、観測がたくさん集まった今ではかなり正確な軌道がわかってきた。特異小惑星の多くはメートル単位で表したほうがいいような微小サイズだから、普段は非常に暗くて、地球にたまに接近した頃にしか観測できない。そうなると軌道のごく一部分しか観測できないから信頼するに足る軌道の全体像を知るのはたいへん難しい。ところがUV13の場合は発見直後のドタバタが嘘のようにすんなりと定まってしまった。見かけの明るさと、そのときの距離から導かれるUV13の実直径は約5ないし12Kmと想像される。これは上の橋本氏の記事にもあるように、これまで見つかったアポロタイプと呼ばれるグループの中でもナンバー2にランクされるビッグサイズで、これは発見の早いうちから注目されていたUV13の特長の一つだが、発見から3週間を経ずしてパロマーのシュミット望遠鏡で写された写真に、それも1953年と1996年のつごう5夜にわたって偶然まぎれこんでいるのが見出され、このためUV13がたどったコースを、一挙に半世紀ちかくもの期間にわたって知ることができたのである。サイズが大きければ明るい。明るければ観測できるチャンスは広がるというのは道理だが、ここで誰しも不思議に思うのは:「こんなに明るい星がなんで今まで見つからなかったか?」であろう。


 実際軌道上で最も太陽から遠い遠日点にいてさえ衝の頃の明るさは約19等級と、ほとんど軌道の全周上で観測できる明るさを保っている。しかしUV13の軌道面は地球のそれに対して約32度も傾むいており、地球に近づいて簡単に見つけられるほど明るくなったときには必ずといってよい程ふつうの小惑星の通り道である黄道からおおきく外れたところを通っていくのである。どうもこのためにこれまでの間はするりするりと探索の眼をかわしてきたらしいが、悪いことはできないもので(←意味不明)、このたびついに御用となったというわけだ。

 2000 UV13の各種データを以下にまとめてみた。また、WEB(URLは http://stdatu.stsci.edu/dss/dss_form.html)で見つけたパロマーのシュミット望遠鏡に捉えられていた1996年のイメージを紹介します。

発見日  2000年10月21日20時22分(UT)
発見位置 おおぐま座南西部
  赤経 9h 47.9m (2000年分点)
          赤緯 +51°16' ( " )
発見等級   16.7等級

公転周期    3.80年
会合周期    1.36年
近日点距離   0.910 AU
遠日点距離   3.957 AU
軌道傾斜角   31.9度
地球軌道との最短距離  0.07 AU

標準等級    13.4等級
実直径   約 5〜12Km
衝の頃の平均等級   16.1等級
遠日点で衝の時の等級 18.7等級

今回の地球最接近日  2001年1月22日(UT)
その距離と明るさ   0.64 AU, 14.9等級

今後約100年間の最大接近日
2099年3月15日(UT) 2080年4月 4日(UT)
その距離と明るさ
 0.14 AU, 15.7等級 0.32 AU, 14.3等級

過去約100年間の最大接近日
  1899年3月 4日(UT) 1982年2月24日(UT)
その距離と明るさ
  0.08 AU, 14.3等級 0.13 AU, 13.2等級

※ 地球最接近日のデータはDr. D. J. Asherの計算による。
※ 小惑星も「満ち欠け」をするので距離と明るさは比例しない。
※ 明るさはすべてV(実視)等級でCCD画像での等級とほぼ同じ。
※ パロマの画像のデータ
  撮影      1996年10月12日(UT)
  露出      45分間
  画面中央位置  赤経 5h 21.9m (2000年分点)
          赤緯 +64°27' ( " )
  画面サイズ   6'×6' (画面上が北)
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 UV13は現在りょうけん座を南東に1日約1度のスピードで移動中で、より精度の高い軌道を求めるため引き続きBSGCでも追跡中であるが、今後はかみのけ座、おとめ座などをへて2001年2月1日にはアンタレスの南西1度以内を通過、そのあと日本国内の視界からいったん南へ去っていく予定である。  (浦田)

図の説明 : パロマーのシュミット望遠鏡に捉えられていた1996年のイメージ

(財)日本宇宙フォーラムが所有する美星スペースガードセンターは日本スペースガード協会によって運用観測され、データの整約も行われている。なお、原画像データの所有権は宇宙開発事業団に帰属し、その使用に当たっては三つの組織に対する謝辞が必要である。