杜の都の流星講演会

                                     加藤 公子


 アッシャーさんの「しし座流星群」についての講演会が、10月29日に仙台市立天文台で開催されたので、受付のお手伝いかたがた行ってまいりました。新幹線を降りてバスの案内を訊ねに駅の中の観光案内所へ行くと、応対して下さった方の後ろの壁に「しし座流星群講演会」の青いポスターが貼ってありました。嬉しくなって喜色満面「あ、これです。ここへ行くのです」と、思わず声がうわずりました。

 仙台市立天文台は町の中の桜ヶ丘公園にあり、40cm望遠鏡のドームも背の高い木立ちに囲まれてしまっていました。講演会は定員100名の募集で、開催時刻には狭い会場いっぱいに参加者が集まりました。入り口で皆さんに入会案内と「あすてろいど」を差し上げ、書籍やバッジの販売をいたしました。

 講演会は定刻1時に小石川さんの司会で始まり、渡辺天文台長の挨拶に続いて、豊川さんが当協会の紹介とアッシャーさんの略歴、10月から美星で観測に従事していることなど話されました。アッシャーさんの講演は「初めて仙台へ来ました」という言葉から始まり、逐次通訳は東北大の土佐誠教授が務めて下さいました。概略は以下のとおりです。

 小惑星や彗星などが地球に衝突する可能性のあることが分かったのは最近のことです。数多くの日本のアマチュア天文家が、これら新しい天体を発見し、その軌道を計算しています。直径1kmの天体は文明を消滅させるスピードを持っています。これは10万年に1回と予想されます。小さい50m大のものが落ちる可能性は1世紀に1回ぐらいで、これは地球の全体でなく、局所的な被害を起こします。1908年にシベリアで、太陽より明るい火の玉が地上数十メートルで爆発し、爆風で樹木が倒れ50平方kmの範囲に被害が出ました。メートル大・センチメートル大、砂粒大のものも落ちてきます。砂粒大でも高速で入ると流れ星になります。

 流れ星は町明かりから離れたところで見ると、1時間に5個前後が見えます。毎年ある時期にもっと沢山の流れ星が見られます。それは地球が流星物質のばらまかれた中を通るからです。1月の4分儀座、8月のペルセウス座、12月のふたご座流星群などもそれです。地球が流星物質の撒き散らされた、狭くて細い筋の中を通ることが条件で、それは地球が1時間ぐらいで通り抜ける広さです。流星が大出現をすると流星嵐と呼びます。

 過去200年のあいだに見られた、もっとも大きかった流星嵐はしし座のそれです。長い直線の道路やレールは、遠くで1点で交わって見えるように、流星も空を逆にたどると1点から放射状に飛び出すように見えるその点が、しし座の獅子の頭の?マークを裏返したような形のところにあります。沢山の流れ星がしし座以外の所で見えても、その経路を逆にたどるとしし座の中になります。11月の中頃は夜中にしし座が上ってきますが、その時間は緯度によります。

 流星物質の大きさは1mmぐらいですが、秒速70kmという速いスピードで大気に飛び込むから、大きな天体と同じように明るくよく見えます。それは高速道路を走るトラックと同じくらいの運動のエネルギーを持っています。通常のしし座流星群は他の流星群に比べて、さほどめざましいものではなく、1時間10個ぐらいの出現ですが、時としてめざましい現象を起こします。それを予報出来れば空の暗い所へ行って観察することができます。いつ、しし座流星嵐がおこるか予想するには、どこに流星物質、つまりテンペル・タットル彗星の破片が残されたものがあるかを調べるのです。この彗星はテンペルとタットルの2人が発見しました。

 人は一生のうちに何回か明るい彗星に出会います。最近の1996〜97年の百武彗星・ヘール・ボップ彗星など、路線バスが団子運転になって続いて来るように続いて現れました。テンペル・タットル彗星はヘール・ボップ彗星ほどめざましくはないが、流星物質を沢山撒き散らして行きました。彗星は“汚れた雪だるま”といわれ、簡単に蒸発しない固体粒子が混じっています。太陽に近付くとその熱で、表面の氷が蒸発してガスになり、氷に混じっていた小さい粒子も放出され粒子の流れを作ります。それが地球に突入すると流星群になります。それを予報するには流れの構造を知り、どこで密度が高くなっているか調べるのです。テンペル・タットル彗星は1世紀に3回、つまり33年周期で太陽の回りをまわって、流星物質を拡散しています。1回に密度の濃い筋(ダストトレイル)が10本ぐらい出来るが、濃い筋はうんと細く、筋と筋のあいだには、流星物質はまばらに存在します。地球が流星物質の中を通り抜けるには数日かかるが、その中の特に濃い部分は1時間ほどで通り抜けてしまいます。私は密度の濃い筋がどこにあるか計算し、地球がそこを通り抜けるか、ロシアの研究者と共同で研究しています。流星物質はもとになる彗星の前方に1〜2年、後方には数年は見られるほど広がっています。従ってテンペル・タットル彗星が回帰した1998年の前後数年間に流星嵐が見られる可能性があります。この密度の濃い筋は断面は円形ですが、地球軌道面と斜めに交わっているので、(バナナをナイフで斜めに切って示す)楕円形のところを地球が通過します。人々の記憶に残る所では、1966年のしし座流星嵐はめざましいものでした。それは密度の濃い筋の真ん中を通過したからです。そして1999年には、1899年に残された筋の近くを地球が通過しました。これは中東やヨーロッパでよく見えて、私はヨルダンの砂漠でこれを見ました。

 来月(11月)中頃に期待されるしし座流星群が、どのくらい飛ぶかは予想できません。濃い筋から離れると、どのくらい流星物質が減るか、前例がないのでわかりません。しかし、濃い筋を通過する時間については正確に、数分の精度で予言できます。2001年には濃い筋の近くを通ります。月が出ていなくて条件がよいでしょう。2002年は二つの濃い筋の真ん中を通り、嵐が期待されますが満月に当たります。

 2000年は世界のどこへ行ったらよく見えるか、それは夜しし座が高く上がっているところ、西アフリカやヨーロッパが条件がよいでしょう。嵐になるかどうかは微妙なところです。2002年は最初に通過する筋はヨーロッパが、二番目に通過する筋は北アメリカが好条件でしょう。2001年は月が出ていないので観測によくて、西太平洋・カムチャッカ・日本が条件のよい場所です。見逃すことのできないチャンスなので、天気の善し悪しをしらべ、素晴らしい流星群を楽しんで下さい。

 このあと会場からの質問がありました。中には直接英語で質問された方もありました。その中から主なものを紹介します。
 質問 = 2003年の出現はどうか?
 答  = テンペル・タットル彗星が通り過ぎてから時間がたちすぎて、流星物質が薄くなりあまり期待できない。1時間に100個見えるかどうかの程度でしょう。

 質問 = 33年後の回帰のときはどうか
 答  = 2034年に濃い筋に接近するが上弦の月がある。
 
 質問 = 他の流星群にも、この予測は適用できるか。 
 答  = できる。ジャコビニ流星群について研究・予言している人もいる。

 このあとしばらく休憩してから、フリーディスカッションの場がもたれ、約30名が参加して討議を交わしたのち散会となりました。

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 なお、2001年から2002年にかけてのしし座流星群のちり雲と地球軌道との位置関係については、「あすてろいど」No.00-02(30号)の矢野 創さんの報告「獅子の雄叫びを聞け」(15ページ、図7)を参照して下さい。