日食写真にチャレンジ
今回のアフリカ大陸からインド洋にかけて見られる皆既日食には、日本からも多くの観測者が出かけられることになると思われます。JSGAマダガスカルツアーは、行程中の全食事付きの安心、安全なツアーといえるでしょう。
さて、日食の醍醐味はなんといっても皆既食の感動にあると思います。その瞬間、見たものはすべて日食病におかされ、次の日食には何が何でもまた行きたくなってしまうという恐ろしい病気ですが、不思議なことにこの病気はかかった患者が、むしろその病気を楽しむといった状態に陥るとともに特効薬がないといった要因もあって改善の余地がない全く大変な病気といえます。この症状の悪化を見ると写真撮影などにも手を出し、再起不能に近づくことになると思われますが(実は私のことなのですが)、こうなったらもう徹底的に病気につきあうしかありませんね。
では、その日食写真の撮り方について述べたいと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
撮影道具などをそろえる
日食の撮影では、1コマの中に多重露出する方法や天体望遠鏡や望遠レンズによる拡大アップした写真がありますが、ここでは拡大した写真を想定した道具を列挙してみました。
撮影光学系
口径6センチ前後F8程度の屈折式天体望遠鏡あるいは望遠レンズ300〜400ミリクラスを用意するといいでしょう。1.4倍ないしは2倍テレコンバージョンレンズを併用して焦点距離を伸ばし、拡大率をアップさせてもいいでしょう。
カメラボディ
一眼レフカメラボディを使用します。
アダプター
天体望遠鏡とカメラボディを接続するのにカメラアダプターが必要です。併せてカメラマウントも必要です。
架台、三脚
架台として本格的なものは赤道儀です。旅行にも簡単に持ち運べるコンパクトなものがいいでしょう。南半球での撮影となりますので、極軸の動きは北半球とは逆であることを理解しておいてください。
なお、赤道儀まで用意しなくてカメラ三脚や経緯台を用いても撮影は十分に可能です。
レリーズ
ブレを防ぐためケーブルレリーズを使ってシャッターを押しますので、1本購入しておきましょう。価格は千円程度です。
フィルター
ダイヤモンドリングや皆既中のコロナの撮影ではフィルターを使いませんが、欠けていく太陽の様子を撮影する場合は、ND10000あるいはND400を2枚重ねて使用し、目やカメラを痛めないように注意しましょう。入手に関しては、天体望遠鏡ショップで早めに買い求めないと売り切れることがあります。
フィルム
一般に市販されているネガカラーフィルム(ISO感度100〜400)を使用します。
実際の撮影
全過程を写す
日食の全過程を撮影するのであれば、太陽の欠けはじめから欠けていく様子、あるいは満ちていく様子を5分おきに撮影するといいでしょう。
撮影の祭は、必ずND10000などの減光フィルターを対物レンズの前あるいはカメラアダプターの中に装着して減光対策をおこなってから撮影するようにしてください。太陽の欠け具合によって露出時間が異なりますので、標準露出表を参考にして露出を決めてください。
日食撮影標準露出表
対象の様子 露出時間(秒) フィルター
部分日食欠けはじめ 1/500〜1/4000 ND10000
半分程度の欠け状態 1/250〜1/500 ND10000
かなり欠けた状態 1/60 〜1/250 ND10000
ダイヤモンドリング 1/250 不要 不要
内部コロナ 1/60 不要 不要
標準的なコロナ 1/8 不要
外部コロナ 1秒以上 ハス 不要
※口径6センチ,F8鏡筒の直接焦点撮影,フィルム感度ISO100 |
ピント合わせは、太陽の縁などを対象としておこなってください。黒点が見えれば、黒点で合わせるようにしましょう。
ダイヤモンドリングを写す
太陽が月に完全に隠される瞬間と出現するときのほんの数秒間だけダイヤモンドリングが見られます。もちろんその瞬間を作例のように撮影することができますが、そのときはフィルターを外して撮影します。
皆既食の撮影
皆既中のコロナは、フィルターなしで比較的簡単に写ります。125分の1秒や60分の1秒では内部コロナとプロミネンスが一緒に写りこんでくれます。外部コロナまで撮影しようとすると、シャッター速度を遅くする必要があり、1秒程度以上の露出時間ではシャッターブレを起こす可能性が高くなりますので、要注意です。
皆既の時間はわずか2分31秒程度しかありませんので、撮影に夢中になっていると、ほとんど見る機会のないまま皆既食が終了してがっかりしてしまいます。
撮影を本格的にやってみたい場合は、撮影時間と眼でみる時間をきちんと分けておいた方がいいでしょう。
太陽高度による露出補正
マダガスカルでは皆既食のときの太陽高度が7.9度と低いため、標準露出表よりもやや多めの露出をかける必要があります。当日の大気の透明度によっても違ってきますが、ISO400フィルムを使って露出表を参考に判断してください。
その他の撮影方法
全行程をひとコマに撮影する方法
これはハイテクニックな撮影となります。三脚とカメラが動かないように固定して多重露出可能なカメラで、広角レンズを用いて多重露出により撮影します。
欠けていく様子はフィルターを使用し、皆既中はフィルターをはずして撮影することになります。
露出はカメラレンズの絞り値(F値)を8とした場合は標準露出表のとおりで適合します。絞り値をF5.6で撮影する場合はシャッター速度を1段早く、逆にF11としたときはシャッター速度を1段遅くすれば同一の露出となります。
手軽に撮影する方法
本格的に撮影する気はないけれども、手持ちのコンパクトカメラでパチリと撮れないかとの問いにお答えしましょう。日食は小さくしか写りませんが、撮れないわけではありません。作例を参照してください。ただし、フラッシュ撮影はおこなわないでください。眼で見ている人の障害となりますので、フラッシュ機能をOFFにして露出はA(オート)で撮影するようにしていただけると、迷惑がかからずに撮影できます。
うまく撮れたら・・・
もし、うまく撮れていたら旅行の記念写真と合わせて焼き増しをして同行した方や星仲間などに配ってください。天文雑誌や「あすてろいど」に投稿するのもいいですね。
最初にチャレンジするときは、目的をもって撮影をおこなった方が、緊張感をもってきちんと計画的に撮影ができると思います。成功をお祈りしています。
田中千秋(たなかちあき)さんのプロフィール
性別 男
生年月日 1953年(昭和28年)5月24日(47歳)
住所 茨城県龍ヶ崎市小柴2-1-3ステラ壱番街7-404
出身地 大分県
出身学校 駒澤大学法学部
天文のきっかけ 5歳のころ、オリオン座の三つ星が時間をおいて見ることによって位置が変わっていることに気づき、その不思議さから星に興味を持つ。その後、中学時代に天体望遠鏡を自作したことをきっかけに一生天文に係わって生きようと決意。高校時代は天文部にて、天体写真の撮影、研究をおこない、その後、現在まで天体写真の撮影を続けている。その間、月刊天文誌SKY WATCHERにおける「ちあきの天体写真教室」等の執筆や同誌フォトコンテストの選者をつとめる。
現在も月刊天文における執筆等に忙しい毎日を送るかたわら、天体観望会や天体写真教室の講演も行っている。
主な著書に「図説天体写真入門」、「図説天体望遠鏡入門」いずれも立風書房刊がある。 |
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