月刊コートダジュール(6月号)

   ニースと日本

       2024年6月30日 紅山 仁 (コートダジュール天文台)


 日本の6月というと梅雨、すなわちじめじめした季節を連想する。一方、ニースの6月はシーズン真っ盛りで、晴れて乾燥している。3日ほど曇りの日が続くと違和感を感じるほどに晴れている。快適な季節が始まったというのに今月は10日ほど国外出張に出ておりニースで過ごす時間は少なかった。早くもニースに来て3ヶ月が経ったので、忘れないうちに一度ニースの良し悪しを記してみようと思う。完全に個人的な意見で、ニースと日本を比較して誰かを貶めようという意図はないことをご承知おき願いたい。

 まず、ニースの道路には数多くの犬の糞が落ちている。JAXAの吉川真氏がニースに滞在していたころから犬の糞があったようなので(「ニース天文台の12カ月 -第4回-日常生活の七不思議」を参照)、25年経っても状況は変わっていないということになる。ニースの受入教員のマルコ曰く多くのフランス人が犬を飼っているからだということだが、個人的には犬の数なら日本も負けていないと感じる。もしこの感覚が正しいとすれば、道路に犬の糞が落ちている理由は数の差ではなく、やはり糞を拾うか否かの文化の違いであろう。私は犬を飼ったことがなく勝手がわからないが、ぜひ愛犬とニースに来る際は、郷に従わずに犬の糞回収を徹底欲しい。誰かが意識的に動かなければ、悪しき風習は無くならないだろう。ただし、ニースには歩きながらスマートフォンを操作する、いわゆる歩きスマホをしている人が少ない。これは前述の犬の糞と密接に関連していると踏んでいる。ニースで歩きスマホでもしたならば、5分歩く間に糞を踏んでしまうであろう。人々が歩きスマホをせず顔を上げて歩いている風景は、ニースのお気に入りの一つである。

また、スーパーやレストランの店員の対応は日本のそれとは異なる。店員が携帯電話を触りながら作業をしていたり、物を食べていることもある。この点はフランス、ニースが特別というより、日本がしっかりしすぎているようだ。3ヶ月もその光景を見ていると違和感はなくなってきた。日本に比べて対応がゆるい店員でも、はっきりと挨拶をする。買い物を終えた客のほぼ全員が「Merci, au revoir (ありがとう、さようなら)」と言い、店員も「Au revoir (さようなら)」と返す。どんなに無愛想に見える人でも挨拶をするし、むしろ挨拶しない方が無礼に当たるらしい。言葉に関連するところでは、人々は惜しげもなく肯定的な言葉を使う。研究や食べ物、何に対しても「amazing」、「great」、「excellent」などの表現を多用する。非常に心地が良いので、個人的にはこれらの文化は日本にも取り入れたい。

 こうやって振り返ってみると、ニースと日本の差は山ほどある。6月のある日、天文台で計画停電があり朝8:30に電気が復旧するというアナウンスがあった。覚悟していたがもちろん8:30には復旧せず、結局お昼時まで電気は戻らなかった。電気がないと研究ができないからと皆で談笑を始める。双眼鏡をもっているから街をみようと言い出すものもいる。おかげでコートダジュール天文台に唯一のレストランChez Khaledは準備が間に合わず、急遽その日の営業は中止。レストラン中止の連絡を受けて皆帰宅するのであった。皆文句を言っているようで、この状況を楽しんでいるようでもあった。研究面では、ニースに限らず欧米諸国と比較してよく言われることだが、教員、学生の距離感が近い。お互いを下の名前で呼び、料理を食べる際には教員が学生に料理を配膳したり、人数分のコーヒーを用意したりもする。何につけても周りを気にし過ぎないこちらの文化の中では、楽に生きられているように感じる。その証拠に、私は極度の心配性だが、6月末で期限が切れるVISAの延長申請の返事がまだ来ていなくとも焦っていない。

 

写真1. 夕暮れ時のニースの旧市街。綺麗な景観とは裏腹に犬の糞が落ちていることは多い。

 

写真2. 天文台が停電の日に双眼鏡で見たニースの街並み。いわずもがな街中には多数の犬の糞が落ちている。