月刊コートダジュール(7月号)

   夜の天文台公開とツール・ド・フランスの閉幕

       2024年8月1日 紅山 仁 (コートダジュール天文台)


 7月上旬の休日、コートダジュール天文台の施設の一つである Calern 天文台 にて「Nuit Coupoles Ouvertes (NCO) 2024」が開催された。日本語で「夜の天文台公開2024」と訳されるこのイベントは、その名の通り午後から深夜にかけての天文台の公開日であり、2022年以来2年ぶりの開催であった。今年は Calern天文台開所50周年であり、日本の木曽観測所と同じ節目の年である。ニースの受入教員であるマルコがNCOに行くというので、車に同乗させてもらい参加してみることにした。フランクな関係が築けていると思い、マルコに家の前まで迎えにきてくれるようお願いしてみたが、さすがにそれは無理なのでうちまで来いと言われ、まだまだフランクさの加減を掴みきれていないことに気付かされた。

ニースの街からCalern天文台までは車で1時間半ほどの距離である。お昼過ぎに到着すると、すでにコートダジュール天文台の学生やポスドクの多くがボランティアとして準備をしていた。来場者に向けた研究内容の説明や講演会などは、日本の大学や天文台の公開日と似たものであった。NCOは16:00から深夜2:00まで行われ、その名の通り「Nuit Coupoles Ouvertes」として盛り上がった。私は未だにフランス語が話せないためボランティアとしては参加せず(できず)、会場の雰囲気を楽しむことに専念した。渡仏して4ヶ月が経過し、そろそろ本腰を入れてフランス語の勉強を開始しなければならないと感じている。 

NCOの興味深い点の一つは、多くのアマチュア天文学者が訪れることである。各々自慢の望遠鏡を持参し、昼間から準備を始める。夜になると数百台の望遠鏡が一斉に夜空に向けられ、大きな望遠鏡の前には自然と列ができ、至る所でゲリラ的に天体観望会が始まる。マルコの友人はNCOのためにイタリアから5時間かけてやってきた。深夜まで観測し、一睡もせずにイタリアに帰る姿は心配になるほどタフであった。そのような天文学者の熱意のおかげか、曇天の予報が一転し、綺麗な星空を拝むことができた。Calern天文台の双子の1 m 望遠鏡C2PU (Centre P?dagogique Plan?te Univers)を用いた観望会も実施され、NCOは大盛況のうちに幕を閉じた。

 さて、7月は他にも多くのイベントがあった。特に下旬にはニース、そして世界にとって歴史的な一日が訪れた。年に一度、自転車でフランスを一周する 「Le Tour de France (ツール・ド・フランス)」が7月21日にニースで幕を閉じたのである。今年はパリ五輪の影響でツールドフランス100年以上の歴史の中で初めてパリ以外で閉幕となった。私はフィナーレを一目見ようとゴール地点のマセナ広場を訪れてみたが、溢れかえる人々の中でゴールの瞬間を拝むことはできなかった。7月下旬の快晴のお昼時、遮るもののないマセナ広場は暑く、諦めムードでニース名物のソッカを食べに行くことにした。その道中、ゴール地点ではないものの人混みのないコースを見つけ、待つこと数分で自転車が猛進する様を目撃した。一般の道路と区切られてはいるものの、手を伸ばせば触れられる距離を選手たちが走る様子は異様に感じられた。同時に、ツール・ド・フランスの伝統と信頼に感動し、なぜか誇らしい気持ちさえ抱いた。

 2024年のNCOとツール・ド・フランスは共に忘れ難い思い出となったが、一生に一度のイベントかと思うと少し切ない気持ちにもなる。NCOは教育面でも魅力的なイベントで、来場者は老若男女幸せそうであった。しかし、Calernへの移動手段はほぼ車に限られているため、国内外から多くの来場者が訪れることによる騒音被害が問題となっているようだ。今年のNCOには2500人、700台の車が訪れた。次回のイベント規模は縮小される可能性があるとのことである。ここまで勢いのあるNCOは今年で最後かもしれない。ツール・ド・フランスも同様で、私が生きている間にニースでの閉幕を見ることはおそらくないだろう。人生で一度しかない機会が立て続けに訪れた7月は、人生における優先順位について考えさせられるひと月となった。

 

写真1. Calern天文台の双子の口径 1 m 望遠鏡C2PUのドームと星空。

 

写真2. 手を伸ばせば届きそうな距離を通過するツール・ド・フランスの選手。選手が近づくたびにチーム関係なく拍手と歓声が上がった。