2024年12月8日 紅山 仁 (コートダジュール天文台)
今月はニースに滞在してから初めての欧州出張があった。出張といっても隣国ドイツへの移動であり、ほとんど国内線感覚ではあったが、私にとっては待望の出張であった。というのも、実はこの夏、ドイツ・ベルリンで開催された国際研究会 Europlanet Science Congress (EPSC) 2024 に現地参加を予定していたものの、滞在許可証が発行されず、参加を断念せざるを得なかった経緯があるからだ。欧州で開催される研究会などに参加することはニースに拠点を移した目的の一つでもあったので大変残念ではあったが、もし空港で不法滞在と判断されれば、研究以前の深刻な問題になりかねなかったため、やむを得ず参加を諦めることとなった。
今回はついに手に入れた滞在許可証と共に、自信満々に空港に到着した。ようやく滞在許可証を手にした安堵感と期待感が入り混じり、空港へ向かう足取りは軽かった。係員に提出を求められる前に滞在許可証 (厳密にはカード型の滞在許可証は未だに発行されておらず、その代替となるAttestation de D?cision Favorable) を差し出してみたが、誰も中身を確認しない。結局、今回のドイツ出張の入出国では一度も日の目を見ることはなかった。こんなことならEPSC2024 にも参加できたのではないかという気持ちが湧き上がるが、過ぎたことなので考えないようにする。兎にも角にも、初めての欧州出張が実現した。
今回の出張の目的は、ドイツヘッセン州のダムシュタットで開催された研究会「EU-ESA Workshop on Size Determination of Potentially Hazardous NEOs」への参加である。ダムシュタットの街並みは整然としていて美しく、どこか日本に通じる部分があると感じた。同じ欧州でも、ニースとは街並みや雰囲気が大きく異なることに改めて気づかされた。研究会会場である ESA (European Space Agency、欧州宇宙機関) の ESOC (European Space Operations Centre)はダムシュタット中央駅から徒歩5分ほどの立地の良い場所にある。この研究会は毎年欧州で行われているプラネタリー・ディフェンス関連の集まりで、年毎にサブテーマが決まっている。今年のサブテーマは「潜在的に危険な地球接近小惑星のサイズ推定」で、いわゆる PHA (Potentially Hazardous Asteroids) のサイズ決定に関係する研究発表が行われた。日本語にすると随分と仰々しい PHA だが、現時点では、地球への衝突リスクが高いと予測されている PHA は確認されていない。それでもここ数年で地球に衝突する小惑星が衝突前に発見されるようになってきており、まさにタイムリーなサブテーマであると感じた。サブテーマは設定されているものの、発表された研究手法は他の太陽系小天体にも広く応用可能な内容が多かった。また、著名な研究者によるレビュー講演を直接聞けるという貴重な機会にも恵まれた。参加者は現地参加とリモート参加を合わせて約100名の中規模の研究会で、対面参加者が過半数を占めていたように思う。この規模だと休憩時間にも任意の研究者と議論しやすく、いくつもの研究について議論が白熱し、リモート研究会では得難い経験となった。
個人的にもっとも印象に残っているのは議論の時間である。この研究会では、中規模の研究会でしばしば用意される数時間の議論の時間があった。世話人のスムーズな進行や、多くの参加者が顔見知りだったことも手伝い、議論はほとんど途切れることなく展開されていた。小惑星のスペクトル型から幾何アルベドを推定することの妥当性、測光観測データを解釈する際の適切なモデル選択、小惑星の物理特性や観測データをどのようにデータベース化するかなどについての意見交換が行われ、研究会は盛況のうちに幕を閉じた。
研究会の懇親会では大勢の参加者らとドイツ料理に舌鼓を打った。ワインではなくビールを味わいながら、自分がフランスを離れた地にいるのだと実感した11月だった。
写真1. 研究会会場ESA (European Space Agency、欧州宇宙機関) の ESOC (European Space Operations Centre)。
写真2.研究会の懇親会で訪れた地ビールレストランBraust?b'l の食事。ドイツのレストランの食事はどこも量が多く、少食の私にとっては忘れ難い思い出となった。