月刊コートダジュール(12月号)

   冬のニースと真冬のミュンヘン

       2025年1月5日 紅山 仁 (コートダジュール天文台)


12月のニースは想像の上をいく寒さであった。北海道と同程度の緯度で日照時間は短いものの、晴天が多く、昼間の気温は10度以上になることが多い。しかし日が沈むと気温が下がり5度程度、寒い時には0度近くになる。家の作りがしっかりしていれば東京より暖かい気温なのだが、ニースの旧市街に位置する私が住むアパートメントはどうやら夏向きの風通しの良い造りになっており、とにかく寒い。夏はエアコンがないので暑く、冬は寒い。渡仏前に信じていた「ニースの夏は日本より涼しく、冬は日本より暖かい」という言説は、少なくとも2024年には当てはまらないようである。

12月も先月に続き、ヨーロッパ出張があった。出張先はバイエルン州の州都ミュンヘン。サッカーとクリスマスマーケットの街だ。厳密には今回の出張先はミュンヘンの北にあるガーヒン (Garching bei Munchen) で、目的はEuropean Southern Observatory (ESO、ヨーロッパ南天天文台) の共同研究者との研究打ち合わせである。先月参加した研究会の懇親会で新しい研究のアイデアが生まれ、集中的に進めてみようということになり二日間かけて議論を進めた。特に太陽系小天体の研究で十分に活用されていないESOの望遠鏡アーカイブデータを用いるというプロジェクトだ。二日という期間はプロジェクトを形にするには短すぎたが、ある程度の進展を得られた。

ガーヒンには ESO 以外にもマックスプランク研究所などの研究機関が集中している。これらの研究機関で働く職員達が利用する食堂でお昼ご飯を食べていると、偶然、マックスプランク研究所に勤務する共同研究者に出会った。図らずも、クリスマス休暇に入る前に論文を形にしようと発破をかけられ、年内に取り組むべき課題が一つ増えた。対面ならではの偶発的な出会いもあり、研究面では多くの収穫があった。

最終日には余裕を持って空港に到着し、ミュンヘン空港のクリスマスマーケットを楽しんだ。初めてのヨーロッパのクリスマスマーケット。あいにくミュンヘン空港のクリスマスマーケットに店内席の概念はない。氷点下に迫る極寒の中、一人ホットワインとソーセージを楽しんだ。ニースの同僚が「寒い中で飲むホットワインがクリスマスマーケットの醍醐味。日本人が寒い冬に温泉を楽しむのと同じさ。」と言っていたことを思い出した。当初は納得していたその言葉がまやかしであると気づいた。ミュンヘンは寒すぎて、ホットワインはすぐに冷め、体は微塵も温まらなかった。日本の温泉とは比べ物にならない。クリスマス休暇明けに同僚にあった際に意義を唱えなければと考えながら、凍える前にソーセージを食べ切った。その後ニース空港に到着して、ニースの冬は暖かく快適であることに気づかされた。

今年のヨーロッパ出張はドイツのみであった。来年はどこで誰とどのような議論をしようかと思いを巡らせながら、初めてのニースの年末をゆっくりと過ごした。。

 

写真1.ESOの施設内に置かれていた Extremely Large Telescope (ELT) のミラー。798枚のミラーを合わせた直径39 m の巨大な望遠鏡がチリのアタカマ砂漠にて建設中である。

 

写真2.ミュンヘン空港のクリスマスマーケットでいただいたホットワインとホットドッグ。寒すぎて味は覚えていない。