2025年2月9日 紅山 仁 (コートダジュール天文台)
南仏の研究者は、冬の休暇も長い。どちらかといえば日本では年末年始休み、欧米ではクリスマスを重要視するという話を聞いたことがあるが、2024年度のコートダジュール天文台の休みは12月21日から1月5日までの2週間強であった。まるまる一ヶ月の夏のバカンス休暇ほどではないものの、年末年始の期間も天文台は閉鎖されており、結局クリスマスもお正月も休みとなった。とはいえ多くの研究者は休暇中にも研究している。世界が誇る働き者の国、日本を出てまだ一年も経たない私も、例に漏れず研究を続けた。天文台閉鎖期間の研究の生産性は自宅環境に強く依存し、例えば夏の休暇期間は家に冷房がなく、集中力を欠いた。案の定、冬の休暇もさまざまな理由で苦しめられた。
まずは、インターネットが無いことである。引っ越して1ヶ月経ってもインターネット回線が開通していないことは以前に紹介した(月刊コートダジュール9月号を参照)。9月上旬に今のアパートに引っ越ししてから何度も工事が行われ(厳密には、技術者が来るだけでほとんど作業をせずに帰ったが)、5回目のインターネット開通工事が行われたのは12月28日。工事を依頼している会社は毎回異なる技術者を派遣するため、もちろん5人目も初めて見る顔であった。到着するや否や工事をするために必要な道具が無いという。世間は休みに入ったのに来てくれてありがたい、今回の技術者は頼りになるかもしれないと思った自分が恥ずかしくなる。フランス語が話せない私のために毎回技術者との立ち会いに同席してくれているフランス人の大家さんもついに堪忍袋の緒が切れたようで、次の工事を最後にしようと言い残していった。すぐにオンラインの予約フォームで1月3日に6回目の技術者の派遣を申請した。年末年始も派遣してくれるのは嬉しいのだが、6人目の技術者も手ぶらでやってきた。挙げ句の果てに、2時間ある作業ウインドウの最初の30分が過ぎたところで、次の作業があるからそろそろ出ないといけないと言って帰ってしまった。4ヶ月間、合計6回の挑戦も虚しく、ついに我がアパルトマンにインターネット回線は通らなかった。仕方がないので、値が張るがサービスが良いという会社に相談してみるつもりだ。すでに徴収された4ヶ月分、計30,000円のインターネット使用料の返金手続きも並行して進めなければならない。
個人的にはインターネットがないこと自体は、そこまで大きな問題ではなかった。そもそも、3人目の技術者が手ぶらで来た時点で、この会社に開通を期待するのは無理かもしれないと気づいていた。もう一つの理由は、インターネットよりも重要なライフラインであるお湯が年末に止まったからである。厳密には部屋のお湯を溜めておくためのタンクが水漏れを起こし、漏電防止のためにお湯を沸かすことを止めたのだが、いずれにせよ12月末にお湯を失った。フランスの水回りが弱いとは渡仏前から聞いており、半年以上住んで頭では理解していたつもりだったが、年末年始に10日間もお湯が使えなくなるとは想定外だった。年末年始はニース中のサウナを巡った。中には入り口に鍵がかかっている不思議なサウナもあったのだが、何とか暖かいお湯を確保できた。こうして、インターネットもお湯もないまま、人生初のフランスでの年末年始を何とか乗り切った。
今年のヨーロッパ出張はドイツのみであった。来年はどこで誰とどのような議論をしようかと思いを巡らせながら、初めてのニースの年末をゆっくりと過ごした。。
写真1. ニース市内にあるお弁当屋「YUYU BENTO」の唐揚げ弁当。お湯がない年末年始は冷水でお皿を洗うことを避けるため外食や惣菜を多用した。お湯が使えなくなったおかげで、ニース一の唐揚げ弁当に出会うことができた。
写真2. コートダジュール天文台の居室から拝む朝焼け。お湯がない年始は誰にも会わないように朝一のバスで天文台へ行き、天文台のシャワーを借りて綺麗になった。お湯が使えなくなったおかげで、朝焼けの素晴らしさを知った。