　

　　　　国際スペース・ガード財団の発足とその後の動き

１．発足までの経過
　日本スペースガード協会が発足するより半年あまり前の1996年３月26日に国際スペースガード財団が発足した。その発足までの流れの一部をあすてろいど14号に書いたのでここでは概略のみをしめす。（なお、今回日本スペース・ガード協会の発足以前の地球近傍小惑星研究会時代に発行された第１号から第15号までの合冊本を製作した。１冊送料込みで2,200円であるので、ぜひ、御購入いただきたい。お申し込みは会計担当の豊川までお願いします。）
　小惑星の地球衝突問題への出発点は1980年ノーベル物理学賞を受賞したルイーズ・アルバレツとその息子ワルター・アルバレツによるイリジウム元素量の増大する地層の発見である。そして、恐竜絶滅と関係して、1989年にチャップマンとモリソンが小惑星の地球衝突に関するかなり詳しい研究成果を発表した。一方、同じ1989年にアリゾナ大学のトム・ゲール達が地球に近ずく小惑星を有効に検出する望遠鏡を完成し、そのような小惑星の検出数を毎年30－50個と飛躍的に増大させた。そして、1990年のユカタン半島に6500万年前に作られた直径170キロメートルもある巨大クレーターの発見により、確率は低いながら、そのような危険にさらされている事が明らかになった。
　これらの流れを受けて、1991年アルゼンチン・ブエノスアイレスにおける国際天文学連合総会の折に地球近傍小惑星ワーキンググループが設立され、今後この問題を天文学のコミュニテｲｰとしてどのように対応するべきかの議論が始められた。その委員会のメンバーは表１の通りである。そして、その後表２のような、国際会議が開催され。小惑星の地球衝突問題の重要性が確認されていった。
　1994年７月のシューメーカー・レビー第９彗星の木星衝突も、この問題が地球にとってもありうるとの認識を強くした。そして、その直後の８月のオランダのハーグで開催された、国際天文学連合総会において、このワーキング・グループをより発展させる方策が検討され、次の1997年８月の京都における総会までに具体的な決定をする事になった。そして、1995年４月のニューヨーク、５月のカリフォルニア州ローレンス・リバモアーにおける、小惑星検出を主とする会議と小惑星迎撃を主とする会議の後、９月に天文学のコミﾕニテｲーとしてどうするかを決定するための会議をイタリアのブルカノ島で持った。この時、日本から参加したのは現在、日本スペースガード協会の運営委員になっている磯部、中野、吉川と札幌の渡辺の４人であった。
　この会議で決まった事は次のようであった。小惑星の地球衝突問題は天文学のコミュニティーだけで閉じていたのでは十分な活動がしにくい。国際天文学連合と密接な関係を保ちながらも、そこから独立した組織を作るべきであるという結論になった。そこで、ワーキング・グループの委員長であったイタリアのアンドリア・カルーシーを中心として組織作りが始まった。そして、ワーキング・グループ委員から会則作り等を助けるボランティアの募集がなされた。そして１９９６年１月にその詳細の決定後、カルーシーが理事候補を募集して、６人の理事が決定した（表３）。

２．発足後の活動
　６人の理事は世界各国にまたがるので、理事会を簡単に開く事はできない。そこで、インターネットを使って情報交換ばかりでなく、期日を決めて（３週間程度）理事会を開く事にした。４月に開かれた第１回理事会では理事長、副理事長が決められた。ネット上では相手の顔が見えないので、お互いに誰を推薦するか具体的な名前が出るまでに少し時間がかかった。磯部がワーキング・グループの委員長であったカルーシーを理事長に若手の中心人物、オーストラリアのダンカン・スティールの名前を具体的に出した所で一挙に決まった。その後の二人の活動を見るとその選択は良かったのであるが、このような選択方法が本当に良いのか私は疑問に思った。その後の活動では、特にカルーシーの努力があって徐々にいくつかの成果を出しつつある。アメリカやヨーロッパでは、NASAやESA（ヨーロッパ宇宙機構）の中に太陽系天体研究者が何人もいる。それらの人を通じてかなりスムーズに財団の考えを伝える事ができた。アメリカでは、シューメーカー・レビー第９彗星の時に作られたシューメーカー委員会の報告書が1995年６月にできていた。又、ヨーロッパ議会が1996年３月20日に、この問題に関して、加盟各国及びESAが可能な範囲での支援をするべきであるとの決議をしていた。この流れに沿って現在、ESAからは小惑星の検出・追跡観測を組織的に行うための準備金約1000万円が提供されようとしている。又、カナリー島に建設中（1997年完成）のスペース・デブリ観測用の口径１メートル望遠鏡の観測時間を財団に観測者の旅費付きで提供する話も進んでいる。
　アメリカでは、NASAがその支援の方法を探っている。財団の理事でもあるブライアン・マースデンは、国際天文学連合の下に、新天体の発見などの情報を提供するサーキュラーを有料で出している。また、小惑星の検出、追跡観測のデータも毎週（時には毎日）更新して、インターネットで提供している。これも有料である。それは職員の給料を出す上でやむを得ないことであるが、有料であるために観測する人誰もが自由にデータが得られない欠点があった。ＮＡＳＡは職員の給料分の費用を提供する準備をしている。これが実現すれば、小惑星の検出・追跡観測の組織化に大きな弾みになる。
　理事であるフィンランドのカリ・ミノーネンは、人類絶滅を起こす１キロメートル以上の小惑星ばかりでなく、国レベルの破壊をもたらす数百メートルサイズの小惑星検出を目指して８メートル級の望遠鏡をアフリカのナミビアに建設する可能性を探っている。これはお金の面ばかりでなく、技術的にも難しい問題を抱えているので、その進み方は遅い。
　日本は残念ながら、研究機関の組織形態の制約によりNASAやESAのように進むのは難しい。地上望遠鏡を国立天文台など光の天文台で建設してもらうという議論にはなかなか進めないでいる。NASAやESAに対応するものは、日本では宇宙開発事業団と宇宙科学研究所に分かれていて、スムースに事を運べなくなっている。アメリカ議会やヨーロッパ議会が地球衝突小惑星問題の検討を指示したのとは異なり、日本の国会内ではまだこの問題が議員の発言にも出ない状況である。NASAやESAが行おうとしているような直接スペースと関係しない援助を宇宙開発事業団や宇宙科学研究所から得るのはとても難しい。目下、一見進んでいるように見えるのは、他の項で示す月面望遠鏡での100メートルサイズまでの地球衝突小惑星探査計画である。しかし、順調に進んでもその実現は20年先の話である。こんなわけで日本では、日本スペース・ガード協会の支援者を一人一人増やす事から始めざるを得ない。
　国際スペースガード財団の会員は30名から徐々に増えているが、60名をやっと越えたところである。そして、その大部分が天文学者である。財団の目的は、日本スペースガード協会と同じで、全ての危険な小惑星を検出・追跡することである。そのため天文学者の割合が多い。さらに、より広い人々に訴えかける必要もあるが、この作業は主に各国にできつつある国単位の財団または協会に任せようとの考えである。その意味で日本スペースガード協会は財団とは独立した組織であるが、人的、経済的支援をできる限りすべきであると考えている。もっとも、当協会の基盤がもう少ししっかりしてからのことにはなるが。
　目下、財団ではいろいろなチャンネルを通じて各方面の支援を呼びかけている。幸い、２～３の財閥から寄付の打診も出てきた。それをより発展させて、それらの資金を使っての実際的な観測研究も進められねばならない。
　1996年９月に国連のスペースの平和利用部門が中心となって、発展途上国の役割の議論がなされた。そこに、カルーシーと磯部が出席し、地球衝突小惑星問題の国際性をも考慮して、国連の主導の下に発展途上国も何らかの協力をするべきであると提案し、その答申案に盛り込まれた。これを引き金として、国連での議論を期待するところである。

３．おわりに
　国際スペースガード財団の動きはその発足以来、急である。それらに対応するべき動きを日本スペースガード協会でも進めたいと思っている。なお、国際スペースガード財団のホームページはhttp://www.brera.mi.astro.it/SGF/で日本スペースガード協会のホームページからもリンクされているのでご覧ください。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　表１　NEO WGの委員
Andrea Carusi              IAS-Reparto Planetologia （Italy）
Michael F. A'Hearn         University of Maryland （UAS）
Edward Bowell              Lowell Observatory　（USA）
Tom Gehrels 　　　　       University of Arizona （USA）
Gerhard J. Hahn 　      　 Institut fur Planetenerkundung　（Gernany）
Alan W. Harris 　　     　 Jet Propulsion Laboratory （USA）
Syuzo Isobe 　　　　　　 　National Astronomical Observatory （Japan）
A. C. Levasseur-Regourd　  Univ. Paris 6 / Aeronomie CNRS　（France）
Brian G. Marsden 　        Smithsonian Astrophysical Obs. （USA）
Andrea Milani 　　       　Dipartimento di Matematica 　（Italy）
David Morrison　　         NASA AMES Research Center　（USA）
Karri Muinonen 　       　 University of Helsinki 　（Finland）
P. Kenneth Seidelmann      US Naval Observatory 　（USA）
Andrej G. Sokolsky         Institute of Theoretical Astronomy　（Russia）
Duncan I. Steel 　　    　 Anglo-Australian Observatory 　（Australia）
Iwan P. Williams           Queen Mary and Westfield College （U K）
Donald K. Yeomans          Jet Propulsion Laboratory 　（USA）

　　　　　　　　表２　地球衝突小惑星問題に関する動き

　　　表３　Members of the Board of Directors　　　　　　　　　　

　　　　　Andrea Carusi (President)
　　　　　Duncan I. Steel (Vice-President)
　　　　　Syuzo Isobe
　　　　　Brian G. Marsden
　　　　　Karri Muinonen
　　　　　Eugene M. Shoemaker

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　［　磯部　秀三（国立天文台）　］

　「ニュース　その２」に進む
　「あすてろいど１７号」の目次に戻る

国際スペース・ガード財団の発足とその後の動き

表２ 地球衝突小惑星問題に関する動き

　

　　　　国際スペース・ガード財団の発足とその後の動き

　　　　　　　　表２　地球衝突小惑星問題に関する動き