1996年11月22日(金)に小惑星が落下し、直径50mのクレーターを作った。場所は中央アメリカ‐ホンジュラスの首都デクシカルバ西方200kmにあるセント・ルイーズの郊外であった。住民は長い尾をひいた巨大な火の玉が空からどんどん落下して地上に衝突したのを目撃している。そして爆風により火災が発生し、数エーカーものコーヒー畑が全滅し、近くを走っている国道が壊された。ホンジュラス国立自治大学の物理学者、マリア・クリスティーナ・ピネダが現地で詳細な調査をし、衝突して飛び散った隕石を採集し、その形成年代が40億年前であると発表した。幸い、人的な被害はなかったようである。
 この報を聞いたとき、1つだけ疑問点があった。それはクレーターの小ささである。これまでの衝突実験などから、極超音速での衝突では衝突物体の10〜20倍の直径を持つクレーターができると言われていた。もし、この通りであれば小惑星のサイズは5m以下になる。地球大気による小惑星への摩擦抵抗力は半径の2乗に比例し、質量は3乗に比例するので、小さい小惑星などは大気の作用で超音速から亜音速に減速されて、クレーターを作ることはない。その限界のサイズは石質小惑星で30m程度、鉄質小惑星で10m程度であると言われていた。今回のものはそれより小さいので、より密度の高い鉄質小惑星かもしれない。これはクレーターの中心部に残っているであろう衝突隕石の採掘後に明らかにされるであろう。
 いずれにしても、今回のものは1908年のシベリアのツングースカ爆発以来の天体の地球衝突である。アメリカのミサイル防衛網には1.5カ月に1回毎の大気中の爆発現象を捉えているが、実際にクレーターを作ったものの落下が確認された唯一のものである。あまりうれしいことではないが、小惑星地球衝突が現実のものとなった最初のものとして、記録されることになる。 (http://www.laprensahn.com/natarc/9612/n16001.htmというホームページにアクセスすると写真が見られるようですが、すべてスペイン語です)
                          磯部 秀三(国立天文台)

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