アリヴェデルチ・セレス (セレスでまた会おう)後 編-4



まとめ

 会議の最後、いよいよ、まとめの段階である。
 小惑星業界の重鎮、Zappara氏がまとめにかかる。ちなみに、彼はイラストが得意とのことで、毎回、こういった学会では自作のイラストを披露して、ジョーク混じりのまとめをやってのけるとのことであった。
 今回も御多分に漏れず、その通りの爆笑イラストでのまとめとなった。何しろ会場でイラストがOHPに映し出されるたびに、出席者が腹を抱えて笑っているのだから相当なものであろう。

 まず、1枚目のOHPで力説していたのが、小惑星というものの「実体」の拡がりである。まだ人類が小惑星の「姿」をみてから10年しか経っていないというのに、既に小惑星に探査機が着陸し、もう間もなく、そのサンプルを手にして帰ってくる探査機が出現する。観測も幅広く行われている。Zappara氏の言葉を借りると、「What "usual" mean?」(普通って何?)ということになるだろう。あまりにも「小惑星」という像が広がりつつあるのだ。

 同じことが小惑星の物性にもいえる。小惑星の構造は、これまでも「石の積み重なり」(ラブル・パイル: rubble-pile)といわれてきた。しかし、では"rubble-pile"とは何か? Zappara氏は「あんたたち、おとといみてきたでしょう」と壇上から畳み掛けてくる。何かと思えば、そう、あのセジェスタの遺跡も、確かに「石」を「積み」上げて作っている。ラブル・パイルなのだ。もっとも、小惑星はあれほど整然と、石が積み上がっているわけではないと思うが…。
 しかも、小惑星の中には、そういった積み重なった「石」の間に、たとえば揮発性物質---えらく省略していえば「水」---を貯えていたりするものも考えられる。逆に、もっと細かな、レゴリスの堆積物のような小惑星もありうる。またまたZappara氏は「サハラ砂漠だってラブル・パイルといえる」といっていた。小惑星の像自体が広がってきたのと同じように、小惑星の組成や構造についても、もっとこまかなモデルが必要になってきているのではないだろうか。

 3つめは、この学会で非常に話題になった、「ヤルコフスキー効果」(Yarkovski effect)である。このヤルコフスキー効果、一言で言うと、小惑星に太陽光が照射されることによって生じる、一種の力学的効果である。小惑星に太陽光のエネルギーが当たり、それが小惑星から放射されるときに、何らかの原因で不均一が生ると、表面のエネルギー分布が一定でなくなる。そうすると、力学的なエネルギーが生まれて、小惑星の軌道などを変化させてしまうという効果だそうである。
 原理自体は100年くらい前には既に発見されていたそうであるが、どうもここのところ小惑星業界ではこの原理が「はやり」らしい。メインベルト小惑星から地球近傍小惑星への軌道変化や、軌道共鳴、その他その他様々な効果について、ヤルコフスキー効果を取り入れた研究が行われて、この学会でもいくつかの発表があった。
 このヤルコフスキー効果は小さな天体により強く働く。地球近傍などに存在する小惑星に対して適用したくなる気持ちも分かるのであるが、Zappara氏は「万能薬ではない。必ず限界がある」と、冷静なコメントをしていた。

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<写真12>セジェスタ遺跡のすぐ下に伸びる、高速道路の高架.古代遺跡に開いた窓から、現代がみえるようである。

 さて、最後の結論は…
 「アリヴェデルチ・セレス」
 Arrivederci Ceresとは、イタリア語で「セレスでまた会おう」という意味である。
 これだけ探査が進んでくれば、きっと次の学会はセレスの上で開けるかもしれない…うーん、2010年でもまだ難しいかもしれないな。でも、少なくともまた、このメンバーだったら確実に地球上では再会しそうではある。
<つづく⇒>