静止軌道上の巨大(約50m)活動衛星-1

磯部 しゅう三・橋本 就安(美星スペースガードセンター)



 2002年4月4日に日本スペースガード協会主催で、本題の記者会見が行われた。当協会では観測に基づいた結果を発表したが、1980年代にアメリカが発表した巨大静止衛星プランを参考に示したところ、そちらの方がより大々的に取り上げられることになった。今後、協会の記者発表の在り方にとって、良い経験であった。ここでは、会員の皆様に、もう少し詳しい内容をお知らせしたい。
 現在、1万個近い人工衛星とスペースデブリがカタログされており、それらに対してNORADがTwo Line Elementsを提供し、一定期間(数週間から数ヶ月)毎に更新されている。静止軌道のものでは、主に光学観測によって有効直径1m以上のものは全て観測可能と考えられてきた。
一方、TLEは提供されているが、通常ユーザ(宇宙開発事業団等)は自身が関心のあるもののみ実際に計算し軌道図を描いていたので、日本の静止衛星の周りにロシアや中国の人工衛星の軌道が重なっていることが美星スペースガードセンターの観測で初めて明らかになったような例があった。しかし、今回、明らかになったのは、これまでに観測されているべきはずの巨大な静止軌道物体である。

 2001年12月に美星スペースガードセンターに口径1m望遠鏡が設置された。残念ながら、設置当初は光学系の調整が十分ではなく、星像がかなりいびつに広がっていた。また、モザイクCCDカメラも付いていなかったので、Apogee 10カメラを取り付けてテスト観測を行っていた。そして、たまたま向けた方向に図1のような像が写っていて、これを美星スペースガードセンターの観測天体順番号でX00639と付けた。図からわかるように、光学系が十分調整されていないために、その物体が何か明らかではなかった。2時間あまりの観測の間、高度・方位角がほとんど変わらないので、静止衛星であることが判明した。

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図1 2001年12月21日17h16m41s?16m43s UT(X00639 Az=200.4°、El=44.3°) 図2 この静止衛星の軌道は軌道傾斜角4度,軌道離心率0.00163,公転周期1435.76分である。

 この未知物体は、8等級という明るいもので、通常の物質でできているとすると、有効直径が40m前後の巨大な構造物である。このような大きな静止衛星であれば、当然NORADのカタログに出ているはずであるが、そのような人工衛星は載っていなかった。中野主一が12月21日の観測データから求めたところによると、この静止衛星の軌道は軌道傾斜角4度,軌道離心率0.00163,公転周期1435.76分である。これを基に求めた12月23日にの軌道は図2の通りである。そこには、当日の観測結果も示されており、計算値と良い一致を示している。

 それ以後、2001年1月,2月,3月と観測を続け、図3のような結果を得た。
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図3 通常、日本上空の静止衛星は、毎日、西の方向に向かってドリフトしていくが、この静止衛星は常に軌道がコントロールされていて、常に同じ軌道を保っていることを示している。
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