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3 将来のNEA衝突予想
再び数十年以内にNEA衝突の可能性があるという報道が世界中を駆けめぐった。
1997XF11が2028年に地球衝突か、とか1999AN10が2034年に地球に衝突かという報道があり、人々を驚かせたというのに、再び同じことを繰り返した。このようなことを繰り返していると、NEAコミュニティは、狼が来たと嘘をつく“狼少年”と思われてしまう。私はこのことを常に心配し、国際的にも国内的にもこのような馬 鹿 げた 騒ぎを起こさないよう警告を発し続けているが、残念ながら、十分理解を得られないでいる。
2002NT7は、2002年7月9日にLINEARプロジェクトによって発見された。そして、その後、 アマチュア 観測家を含む世界の観測網により追跡観測が行われ、7月14日になって、国際天文学連合(IAU)の小惑星センターからこの小惑星がNEAであると発表され、より精度良い軌道決定のために更なる追跡観測の要求がなされた。そして、18日より、JPL(ジェット推進研究所)とピサ大学のホームページにトリノ・スケール(注4)とパレルモ・スケール(注5)の表示がなされるようになった。それらの値はそれぞれ 1または0に近く、IAUの決まりで専門家によるレビューをして、その結果を発表すべきものであった。
しかし、これらのホームページを見たマスコミの方々が、それぞれの国、地域のNEA関係者にインタビューして、2019年2月1日に地球に衝突する可能性があると発表してしまった。私のところにも20日以後、28日に衝突の可能性がほとんどなくなることが明らかになるまで、連日のようにマスコミの方々から取材の電話がかかってきた。このような衝突の可能性に関する発表は、いつすればよいのであろうか。
1997XF11や1999AN 10は、衝突確率は100万分の1以下であった。そのような段階では、100万回のケースに対して99万9999回衝突しなかったということになるのである。天文学者は、 確率ということばで 科学的 に正しいことを言っているので、そのような報道に対する責任を免れるのであろうか。多くの人々は確率ということばを正しく理解するのはかなり難しいと思う。
表2は、18日以降の2つのホームページでのパレルモ・スケールの変化である。日に日に新しい観測が加わると値は変化している。ピサ大学の値はプラスになっていて、衝突確率が高いことを示しており、JPLはプラスとなることは一度もなかった。両者の違いは、数値積分をする時のコンピュータのコードの違いであり、どちらが正しいとは言えない段階である。
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磯部は1999年のCOSPAR会議(論文はAdvanced Space Review, Volume 28, pp1139 -1147)で、観測期間が十分でない段階でこのような衝突確率を発表すべきでないと発表した。最大の理由は、観測には誤差があるためである。衝突確率をどのように求めているかというと、観測された期間のデータを使ってNEAの軌道要素とその誤差を決め、将来のある時刻にNEAが存在しうる範囲(誤差楕円という)を次々と決めていき、地球に接近した時に誤差楕円の中に地球が入り込むかどうかを求める。確率分布を持った誤差楕円の中で、地球がどの位置に来るかによって衝突確率が決まる。
2002NT7の場合、たった10回ほどの観測データで軌道決定し、将来の誤差楕円を計算しているのであるから、その誤差楕円がとても大きく衝突確率は必然的に小さくならざるを得ない。
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