ASTEROID
The Journal of Japan Spaceguard Association
Vol. 11, No. 4 November 2002, Founded in May 1992.
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太陽方向から地球に接近する小惑星の割合が多すぎるのではないかと感じている人が多いであろう。実際にもかなりの割合で太陽方向から地球に接近しているのである。多くの人は、太陽方向から接近すると書かれると、地球接近小惑星が彗星のように長楕円の軌道を描いていると考えがちである。これは、大きな間違いである。小惑星の軌道は、離心率の小さい楕円で、図に描くと中心点はずれるが、その形状は見た目では円とほとんど区別できないくらいである(図1)。それではなぜ太陽方向から接近する小惑星の割合が多いのであろうか。
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図1 地球と交差する軌道を持つ小惑星の典型的な例    
小惑星の軌道は楕円軌道であるが、このスケールではほとんど円に近いものである.両者が衝突する可能性は軌道が交わる2点のみである。
この問題に関しては、磯部・吉川が1996年に、Earth, Moon, and Planets, Volume 72, pp263-266で発表した論文で、最初に指摘をし、その後Asherとの共同論文で、より明確な姿を明らかにしてきた。地球と衝突する可能性のある小惑星は当然のことながら、地球軌道を横切る。地球の軌道が円軌道とすると、楕円軌道の小惑星は、地球軌道の外側から内側に入り込み、しばらく後に内側から外側に出ていく(図1)。両者が衝突したり接近したりするケースはこの2点でしか起こらない。
地球に対しても小惑星にも作用する力は大部分が太陽の引力であり、ほぼケプラーの法則に従っている。その場合、太陽の周りの回転速度はほぼ太陽の距離の関数になっている。言い換えると、地球と小惑星が接近する時には両者はほぼ並んで動くようになる。小惑星が内側から外側に出ていく場合、内側にいる間は地球に追いつこうとし、接近した時には並走し、外側に出ると地球に離されるという形になる。その並走している段階では、地球から見て小惑星は太陽方向周辺に見えるのである。
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図2 小惑星の最接近(0日としてある)の前後の日の地球までの距離(天文単位)と太陽方向となす角度の変化。
図2は実際に見つかった小惑星の例であるが、最接近(0日としてある)の前には10日余りの間、太陽方向周辺からほとんど動かないことがわかる。最接近を過ぎると、太陽方向の反対側に一挙に移るのである。
Asherが検出された小惑星の地球への接近方向の分布を示したのが図3である。太陽方向の30度以内から接近するケースが30%近くあることがわかる。この事実は、図1のように地球と小惑星が2点で接近することからも理解できる。両者の軌道が平面上にあれば50%になるべきであるが、軌道が傾いている場合には2点とも太陽方向とは無関係になるので、50%より小さく、30%近くになることを示している。
このような太陽方向から地球に衝突する小惑星をどのように取り扱えばよいかについては、次節で紹介する。
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図3 これまでに接近した(0.01天文単位=150万km)小惑星の接近方向の分布◎は太陽方向で、その周辺に多くの点が集まっている。
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